専業主婦に払いすぎた年金を返してもらう。こんな当たり前のことを求める法改正に民主党が待ったをかけた。不公平感の是正が目的なのに、これでは制度の信頼性を取り戻せない。
国民年金の資格切り替えを忘れて、本来より多く受け取っている専業主婦らが約五万三千人いる。これから受け取る現役世代も約四十二万二千人いる。過払い分は返してもらうのが筋だ。
会社員や公務員の妻である専業主婦は保険料を払わずに年金を受給できる「第3号被保険者」だ。夫が退職などすると「第1号」となり自分で国民年金保険料を払う必要がある。
この切り替えを届けずに記録上「3号」のままで、保険料を払わずに年金を受け取れる事態が生じている。
厚生労働省はその是正策として、時効にかからない過去五年分の過払い分を返してもらう。年金記録を訂正し今後は減額する方法を決め、国民年金法改正を準備していた。
だが、民主党は返還を求めないことを決めた。「高齢者に配慮した」というが、なんのための法改正なのか。
厚労省案は低所得者からは返還を求めず、減額も今の年金額の10%を上限とするなど既に民主党の修正案を盛り込んでいる。
切り替え届けが必要な人の95%はきちんと手続きをしている。まじめに保険料を払い続けた人からは、修正案ですら不公平感が残るのに、民主党の決定は公平性からは程遠い。党を説得できなかった小宮山洋子厚労相の手腕も疑う。
専業主婦の切り替え忘れ問題は、当初から迷走した。年金記録を訂正すると、保険料の未納期間が生じて無年金や低年金になる人が出てくる。その救済策として厚労省は昨年、二年分だけ保険料を追納すれば未納期間すべてを「納付済み」にする対応を決めた。
しかも国会審議・法改正を行わない課長通知で実施した。当然だが「あまりに不公平だ」と批判を浴びた。その反省に立ち、不公平感の是正を法改正で行うものだ。
現在、持続可能な社会保障制度にするため年金・医療・介護・子育てなど各分野で改革論議が進む。給付抑制や負担増の痛みを各世代で分かち合おうとしているときに、政府・民主党の対応は改革から逃げているとしかみえない。
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