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野田首相がきのう、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉への参加に向けて、関係国との協議に入る考えを表明した。首相の方針そのものは、良かったと評価する。[記事全文]
ギリシャで再燃した欧州危機が、ユーロ圏第3の大国イタリアに飛び火している。イタリアの政府債務は国内総生産(GDP)の1.2倍に及ぶが、単年度でみると内容はそう悪くない。[記事全文]
野田首相がきのう、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉への参加に向けて、関係国との協議に入る考えを表明した。
首相の方針そのものは、良かったと評価する。
だが、民主党内の強い慎重論を受けて方針決定が遅れ、きのうの衆参両院の審議で議論を深められなかったのは国会軽視そのものだった。
首相はもっと早く自身の考えを示し、みずから説得にあたるべきだった。ほとんど国民の理解が広がらないままの見切り発車は残念だ。
首相はきのうの記者会見で、「アジア太平洋地域の成長力を取り入れなければならない。十分な国民的議論を経たうえで、国益の視点に立ってTPPについて結論を得たい」と述べた。
ヒトもモノもカネも国境を越えて行き交う時代に、輪に加わらずにいるのは難しい。これからも国を開いていくのは当然のことだ。
一方で、すでに問題点や疑問が山ほど指摘されている。農業と地方の衰退に拍車がかかる。公的保険や金融などの制度見直しを強いられる、などだ。
さまざまな懸念は、杞憂(きゆう)とも言い切れない。疑問に誠実に答えつつ、日本の経済成長につなげられるか。成否を分けるのは、今後の政府の対応である。
まず、他の参加国に強い姿勢を貫くことだ。交渉に加わるには9カ国すべての同意が要る。交渉に入りたいなら、この分野で譲歩せよと米国などに求められても、安易に請け負ってはならない。不透明な「密約」が明らかになれば、国内の逆風がさらに強まるのは必至だ。
同時に、国内の合意づくりにもっと汗をかかねばならない。民主党国会議員の半数が、現時点での交渉参加表明に反対する署名に名を連ねた。野党も、みんなの党を除けば軒並み反対だ。このままでは交渉に妥結できても、国会での承認に行き詰まりかねない。
首相は、国民の不安を解きほぐす努力をするしかない。交渉で何を勝ち取るのか。「医療制度や伝統文化、美しい農村は守り抜く」というが、どう守るのか。明確にするためにも、国民との対話の場として、東日本大震災で中断したシンポジウム「開国フォーラム」を再開してはどうか。
農業対策をはじめ、しわ寄せを受ける分野へのテコ入れも急がねばならない。
首相は、対外交渉と国内の合意づくりという難しい二正面作戦を、どう指揮するのか。何もかも、これからだ。
ギリシャで再燃した欧州危機が、ユーロ圏第3の大国イタリアに飛び火している。
イタリアの政府債務は国内総生産(GDP)の1.2倍に及ぶが、単年度でみると内容はそう悪くない。それでも窮地に追い込まれたのは、欧州がこれまで打ってきた危機対策に限界があったからだ。
ユーロ圏首脳は7月下旬にギリシャの2次支援で合意した。そこには、民間金融機関が保有するギリシャ国債について、返済の減免に協力する条項が含まれた。さらに10月末に包括案をまとめる過程で減免率が21%から50%に上がった。
ギリシャに問題が限定されていれば大目に見られた案だが、当のギリシャが国民投票を表明して大きな狂いが生じた。
政府債務だけでなく、政治的リーダーシップに疑問符が突きつけられた。市場は、地下経済や既得権の温存などの構造問題も一括して解決を求め、他の国に対してもギリシャと同じ目線で見るようになった。危機の様相が変わったといえる。
そこで標的になったのが、長期政権下で腐敗が指摘されてきたイタリアである。いつギリシャのように減免を要求されるか分からないから、国債が投げ売りされる。欧州はギリシャでの危機封じ込めに失敗し、「伝染力」が一気に高まった。
「国債は安全資産」とされてきたが、結局は政府同士の約束にすぎない。欧州は国債に対する疑心暗鬼が世界中に広がる前に、今までの発想を変えて抜本策を講じる責任がある。
当面は、欧州中央銀行(ECB)が国債を買い支えつつ、国際通貨基金(IMF)の監視下で再建を進めるしかない。同時に、ユーロ圏内の財政危機は加盟国からの財政支援で解決するという方針を表明すべきだ。
なぜなら、これまでの対応策は財政負担をできるだけ避けようと、金融的な小細工に走り、逆に金融システムそのものを動揺させているからだ。
財政危機の国や銀行を支援する欧州金融安定化基金(EFSF)の拡充も、損失は欧州が負うと保証しなければ、財政が厳しい日米や経済的水準がまだ低い新興国は協力できない。
欧州連合(EU)の基本条約では各国間の財政支援は禁じられている。ただ、EFSFの後継制度として欧州版IMFを恒久的に設けるにあたり、条約改正は既定路線になっている。
危機対応の際には、さらに財政支援が拡大できるよう、条約を見直すという決意を欧州、特にドイツが示すべきだ。