HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 19877 Content-Type: text/html ETag: "2a5238-483a-a4a58700" Cache-Control: max-age=5 Expires: Thu, 10 Nov 2011 23:21:44 GMT Date: Thu, 10 Nov 2011 23:21:39 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2011年11月11日(金)付

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 紙面で見たその蝶(ちょう)に、黒い和服の女性が重なった。憂いを帯び、言葉をかけるのがはばかられる風情には、かすかにアジアの芳香が漂う。記事にある「ヒマラヤの貴婦人」という異名にうなずいた▼日本蝶類学会の調査隊が、ブータンの奥地で約80年ぶりに確認した「ブータンシボリアゲハ」だという。英国の探検家が1930年代に見つけ、大英自然史博物館に5匹の標本があるのみだった▼羽を広げた大きさは12センチほど。熱帯の密林を舞う種類の鮮やかさはないけれど、それゆえ、淡黄の細じまと赤い文様が際立つ。後ろ羽から延びる突起も優雅この上ない。調査隊は、ブータン政府の許しを得て5匹を捕獲し、標本を残してきた▼NHKの番組で、飛翔(ひしょう)や産卵の様子を見た。蝶の森にはたまに村人が入り、要るだけの薪(まき)を切り出す。適度な関与により、蝶が生きるための植生が保たれるらしい。「ブータンの人たちが守ってきたといえる」。研究者の言葉が胸に残った▼〈現実が夢かと思う秋めく日黒揚羽(くろあげは)ゆくアバウトな空を〉中村偕子。黒い蝶は総じて神秘的だが、この貴婦人には知が匂う。先頃、ブータン国王が妻に迎えたペマ王妃(21)に通じるクールさだ。来週、ご夫妻で日本にいらっしゃる▼人口70万の山国は、国民総生産ならぬ「総幸福」を追う国づくりで知られる。スローライフの思想だろう。少し前の調査では実に97%の国民が「幸せ」と答えたそうだ。霧の谷で命をつなぐ蝶にも似て、そっと見守りたい国である。

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