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信心深いほうではないが、人知を超えたものに救いを求めることはある。あらゆる宗教に期待される役割でもあろう。平安末から鎌倉期に多くの仏教宗派が生まれたのは、絶えぬ戦乱や天災と無縁ではない▼上野の東京国立博物館で特別展「法然(ほうねん)と親鸞(しんらん) ゆかりの名宝」を観(み)た。浄土宗を開いた法然と、浄土真宗の宗祖親鸞。極楽を夢見る民衆を導き、仏教を大衆化した師弟の歩みを、あまたの国宝や重要文化財でたどっている(12月4日まで)▼当時の極楽浄土は狭き門。出家して修行を積むか、寺に寄進した者だけに許される別世界だった。それゆえに、南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)をとなえれば誰もが浄土に行ける、という法然らの教えは革命的で、現世で苦しみ、往生もかなわぬ民衆は光明を見た▼京都・知恩院からの国宝「阿弥陀二十五菩薩(ぼさつ)来迎図(らいごうず)」(13日まで公開)は、死期迫る人を阿弥陀如来が迎えに来る様を描く。左上から右下へ、雲に乗り、山肌を駆け下りる阿弥陀たちのスピード感。見る者は救われたに違いない▼法然の800回忌、親鸞の750回忌にちなんだ企画ながら、どういう縁なのか、救いが必要な年に重なった。未曽有の天災と人災に襲われ、明日を描けず、もがく人々がいる。すべてを救うという思想は、色あせない▼癒やしを求めて訪れるのもいい。紅葉燃える上野には、求道者たちの魂が宿る品々が待つ。親鸞のきちょうめんな直筆を追い、歎異抄(たんにしょう)の墨跡や阿弥陀像に向き合っていると、心がすっと軽くなった。