公園を歩くとイチョウの葉が黄金色に輝き始め、落ちた銀杏(ぎんなん)の実が転がっていた。踏みつぶされた銀杏のあのにおいもまた、この季節だけの風物詩だろう▼一般に、良いにおいは「匂い」「香り」、不快な時は「臭い」と記す。清潔志向が強まり、においに敏感な人が増えているが、無臭社会は生きる力を奪われるようで味気ない▼においの力を社会貢献に役立てているベンチャー企業が注目を集めている。わさび臭の気体を噴射し聴覚障害者に火災を知らせる装置を開発し、社長らがユーモアのある発明や研究に贈られるイグ・ノーベル賞を受賞した「シームス」(東京)だ▼日本記者クラブで会見した漆畑直樹社長の話を聞く機会があった。においを利用した数多くの商品開発の延長にイグ・ノーベル賞があることを知った。同社のホームページによると、姉を直腸がんで亡くしたことが、漆畑社長がにおいにこだわるきっかけだったという▼やせた姉を抱くと新緑のようなにおいがした。がん患者に特有のにおいがあり、早期発見できるなら…。そんな思いが体臭を分析する「がん探知においセンサー」の研究や、乳がんのにおい成分の特定につながった▼社会に貢献する商品をつくる。その姿勢は一貫している。わさび臭のスプレーは目にしみるほどの強烈さだった。人のためになる記事を書かねば、と目が覚めた。