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今年の夏前の小欄で、「梅雨時に見る花には不思議と白が多い」と書いたら、関西に住むご年配から達筆の手紙をいただいた。「万緑叢中紅一点(ばんりょくそうちゅうこういってん)、紅(あか)い花もお忘れなく」とあった。自宅の庭に石榴(ざくろ)の一木がある、とお書きになっていた▼万緑叢中紅一点――は漢詩の一節で、いちめんの緑に紅い花が一つ咲く情景をうたっている。詩の題を「石榴(せきりゅう)の詩」というから、石榴の花を言うようだ。わが最寄り駅への道にも石榴の植わったお宅がある。夏の緑に可憐(かれん)な朱を点じていた花が、今は実をなしてぶら下がり、晩秋の風に吹かれている▼その実はどこか古風で、俳味をかもす。樹上に熟して裂ける姿は、笑うように口を開いた「お化け提灯(ちょうちん)」を連想させる。〈皿におく呵々大笑(かかたいしょう)の石榴かな〉豊田都峰。お便りにあった石榴も、呵々と笑っている頃だろうか▼思えば「白」は秋の色で、青春、朱夏、そして白秋となる。秋の風には「白風」の異名がある。その風を「色なき風」とも呼ぶ。すきとおった風の中で自然は色づき、寂(さ)びていく。気がつけば立冬も近い▼透明感のある風の中、目に温かい実を見るのもこの季節だ。秋の陽(ひ)の色に染まったような熟れ柿。ピラカンサやソヨゴといった小粒な赤には、時々鳥が来て、枝を揺らしていく▼きょうは広く雨模様の一日になるそうだ。気温は穏やかというが、何せ「冬隣(ふゆどなり)」と呼ばれる時候である。〈国安く冬ぬくかれと願ふのみ〉。戦前に虚子の詠んだ一句が、今年はことに思い起こされる。