世界的な精密機器メーカーと国内大手の製紙会社が不祥事に揺れている。日本企業の統治能力に疑問符が付きかねない。経営陣は常に正確な情報を公開し、企業の社会的責任を自覚してほしい。
内視鏡で有名なオリンパスは先月中旬、就任後約半年の英国人社長を「独断専行」を理由として解任した。だが元社長は「企業買収の問題点の有無を調査したら解任された」と反発、訴訟も辞さない構えだ。
同社は三年前、英医療機器メーカーを二千百億円で買収した。その際、投資助言会社に買収額の30%を超える総額約六百六十億円を支払った。元社長は「買収額も報酬額も高すぎる」と指摘した。
これに対して現経営陣は「企業買収額や報酬額は適正」(高山修一社長)と語り、不正行為は一切ない、と強調する。双方の言い分は正反対である。同社は一日、弁護士らによる第三者委員会を設置した。できるだけ早く資金の流れなどを解明すべきだ。
ティッシュペーパーで知られる大王製紙は、創業者一族の前会長が子会社七社から巨額の借り入れをしていたことが発覚した。同社の特別調査委員会の調べによると、無担保の借入金は実に総額百六億八千万円に達する。
調査委員会は辞任した前会長を会社法違反(特別背任)の疑いで東京地検特捜部に告訴する方針。「創業者親子に絶対的に服従するという企業風土が根付いていることが、不祥事の原因」と認めている以上、司直の手を借りて体質改善に取り組むのはやむを得まい。
両社の不祥事は国内外の投資家から、日本企業に共通する不透明で理解できない経営手法と受け取られる恐れがある。東京証券取引所が全上場企業に対して企業統治と法令順守を再確認することを求めたのは当然である。
バブル崩壊後、粉飾決算やインサイダー取引、欠陥製品事故、牛肉など食品偽装、耐震・試験データ改ざんなど社会を揺るがす不祥事が相次いだ。今回は企業の品格が問われている。
不祥事防止策では社外取締役の選任や顧問弁護士以外の弁護士らによる第三者委員会の設置義務付け、さらに内部通報制度の強化なども効果的だろう。だが厳しい制度をつくっても運用する側に自覚がなければ絵に描いた餅だ。
企業価値を最大に高めると同時に、企業は社会の公器との意識を忘れない。経営者が私心を捨てることこそ不祥事防止の根幹だ。
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