政府が東京電力の緊急特別事業計画を認定した。原発事故を引き金とする料金値上げへの反発を恐れているのか、料金制度改革などの課題を先送りした。根っこには東電延命の意図が潜んでいる。
今回の事業計画は、福島第一原発の事故後の経営方針を示すことが目的だ。事故の賠償を資金面で支える政府の「原子力損害賠償支援機構」と東電が共同でまとめた。事業計画は「被害者の目線に立った親身・親切な賠償を直ちに実現する」と、事故が収束せず多くの避難住民が帰宅できない現実を見据え、半分を救済策の記述に割いている。
損害賠償などを遅滞なく進めるのは当然だが、釈然としない点が多々目につく。
計画は弁護士ら第三者で構成する政府の「経営・財務調査委員会」による東電の経営報告を受けて策定された。同じ東電の柏崎刈羽原発が稼働せず、著しい値上げをしないまま放置すると、向こう十年間で八兆円超の資金が必要になるとの指摘に沿った内容だ。
枝野幸男経済産業相は折々に「国民負担の最小化」を強調しており、反発を招く電力料金値上げは何としても避けたいのだろう。
計画は賠償機構から約九千億円の支援や向こう十年間の東電の経費節減二兆五千億円、日本政策投資銀行の三千億円のつなぎ融資などで債務超過を回避し、電力業界の盟主、東電の延命を通じて関西や北海道など他の電力会社にも影響力を及ぼすシナリオを描いた。
枝野経産相は認定に当たり、機構の支援を「税金を預かる責務がある」と語ったが、計画は返済方法すら示しておらず公的資金投入に理解が得られるか疑わしい。
調査委が機構と東電に求めた人件費や設備費などの原価に利潤を上乗せして料金を決める総括原価方式の見直しや、競争がないために経営の効率化を妨げている電力事業の地域独占などの改革を、ことごとく来春に予定している総合特別事業計画に先送りした。
既に審議会で議論が始まっていることを理由にしたいようだが、野田佳彦首相はベトナムへの原発輸出を容認し、九州電力の玄海原発は、やらせメール問題をうやむやにしたまま再稼働を認めた。原発依存度を可能な限り引き下げる、再稼働は安全確認が前提−とした首相の発言はもはや掛け声にすぎないのか。
先送りした課題や、原発・エネルギー政策をどうするのか。国民が納得する答えが必要だ。
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