ギリシャ神話のディオニュソスは、バッカスの名でも知られる酒神だが、同時に演劇の神でもあるという。それかあらぬか、演劇用語にはギリシャ語起源が多く、ドラマ(劇)という語自体、そうである▼最近のギリシャをめぐる動きも、ある意味、ドラマチックだ。欧州各国がギリシャ支援を含む包括的対応策をまとめて、ユーロ危機も大団円に向かうかに見えたが、助けられる側、ギリシャのパパンドレウ首相が突然、受け入れの是非を国民投票にかけると言いだした▼支援と引き換えの厳しい緊縮策への反発が強い国民への“脅し”の狙いもあったやに聞く。だが、もし否決でもされたら、ユーロ圏は大混乱、元も子もない。首相の無謀なシナリオに、欧州では独語、仏語からスロバキア語まで、あらゆる種類の罵倒語が飛び交った▼結局、今度は首相が独仏などの首脳に脅され、国民投票を撤回する意向を表明したが、この間、市場は混乱、余波は日本にも及んだ。首相の信用は失墜し、ギリシャ政治の安定もなお覚束(おぼつか)ない▼ドタバタの展開は少しコメディー(喜劇)を思わせるが、一つ間違えば、世界経済が危機に瀕(ひん)すのだから笑ってもいられない。ドラマの結末は見えないが、トラジェディ(悲劇)だけは避けねばならぬ▼既に、お察しのことと思う。コメディーもトラジェディも、やはりギリシャ語由来である。