HTTP/1.0 200 OK Server: Apache Content-Length: 47707 Content-Type: text/html ETag: "f54e7-12c4-4b0d731156302" Expires: Fri, 04 Nov 2011 01:21:15 GMT Cache-Control: max-age=0, no-cache Pragma: no-cache Date: Fri, 04 Nov 2011 01:21:15 GMT Connection: close 11月4日付 編集手帳 : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)


現在位置は
です

本文です

11月4日付 編集手帳

 夫の母親の前で、夫の名前を口にする。仮に一郎という名前のとき、「一郎が」と呼び捨てにするべきか。「一郎さんが」と丁寧に言うべきか◆息子を呼び捨てにされてお(しゅうとめ)さんが激怒した実例を、文芸評論家の巌谷大四さんが随筆集『父と子』(三月書房)に紹介している。先だって、古書店で買い求めた。著者の見解は〈おだやかに「さん」をつけておいた方が無事ではないだろうか…〉◆うなずきかけて、余白の書き込みに目を留めた。〈テメエノ亭主ニサンヲツケルカカアガアルカバカ〉。以前の持ち主は呼び捨て派だったらしい◆読書の醍醐(だいご)味は著者との対話にあるというが、かつての所蔵者を交えた鼎談(ていだん)は古本ならではの楽しみだろう。「読書週間」も後半に入った。お言葉ですが…と反論して返答があるはずもないが、しばしの沈黙を虫の音色に埋めてもらうのも悪くない◆森鴎外は古書に押されてあった蔵書印に感興を得て史伝小説『渋江抽斎』を書いたという。文豪ならぬ身は達筆にして口の悪い書き込みを眺めては、どこかにいた小言幸兵衛さんの頑固そうな面影に思いをめぐらすばかりである。

2011年11月4日01時36分  読売新聞)

 ピックアップ

トップ
現在位置は
です