野田佳彦首相がベトナムのズン首相との会談で原発輸出に道を開いた。国内で原発依存引き下げを言い、海外には積極的に売り込む。あいまいな二重基準であり、原発推進への前のめりが目立つ。
両首脳は日本からベトナムへの原発輸出で合意した。原発輸出は菅直人前首相のトップセールスで決まった経緯がある。もちろん信義は守るべきだが、野田首相は国会で「原発依存度を可能な限り引き下げる」「安全性が確認された原発は再稼働」「省エネルギーや再生可能エネルギーの最先端モデルを世界に発信」と表明したのではなかったか。
国連演説では東京電力福島第一原発の事故を教訓に「安全性を最高水準に高める」と強調し、「原子力利用を模索する国々の関心にこたえる」と輸出も視野に入れて原発の必要性に言及した。
放射性物質を広範囲にまき散らした深刻な事故を背景に、国民に語った原発依存度引き下げとの違いを首相はどう説明するのか。国の内と外とを巧みに使い分ける二重基準と受けとめざるを得ない。
原発輸出は一基で兆円単位の巨大事業であり、人口減で市場が縮む国内に代わって外需を取り込む新成長戦略の柱だ。既に官民出資の国際原子力開発がベトナム電力公社と協力覚書を交わしている。
ベトナムは有力な投資相手国でもあり、原発輸出は日本の経済界の期待が大きい。経団連との蜜月関係を再構築したい野田首相には、それも念頭にあるようだ。
新興国・ベトナムにとって、産業の発展には電力の安定供給が欠かせない。しかし、一期工事はロシアに発注済みで、今回の二期工事をも契約すれば一国偏重に陥る。リスク分散のために日本を選んだとの見方がもっぱらだ。
原発輸出の前提としてインドと合意した原子力協定の交渉入りもインドが中国を牽制(けんせい)する狙いが潜んでいる。原発輸出はこうした安全保障上の駆け引きを避けて通れないが、それ以前に肝心の原発政策が二重基準では、白紙からの見直しが始まった新たなエネルギー政策に国民の理解は得られないだろう。
首相は玄海原発の再稼働を認める一方で、風力や太陽光、地熱など、自ら語った再生エネへの転換は確たる決意が伝わってこない。
幸い、日本の環境技術は高い水準にある。まずは二重基準のあいまいさを国民が納得できるよう整理し、原発を再生エネに置き換える先駆者への道を歩むときだ。
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