北朝鮮などの地下核実験を監視する日本原子力研究開発機構の観測所(群馬県高崎市)では、福島第一原発事故の影響で検知に支障がある状態が続いた▼核実験で放散する放射性希ガスのキセノンを測定する高精度の装置が、原発から地球規模に拡散したキセノンを検知、核実験の観測が正確にできなくなったからだ。通常に戻ったのは事故の三カ月後だ▼核分裂の直後に生成されるその放射性物質が、福島第一原発2号機で検出された。核分裂反応が連鎖的に続く「臨界」が局所的に起きた可能性もあるという▼政府と東電は収束の目標となる原子炉の冷温停止の達成時期を「年内」と明記する工程表を発表していた。微量とはいえ長くても半減期が五日間しかない放射性物質の検出で、いまも核分裂が続いている疑念はぬぐえない▼そもそも、メルトダウン(炉心溶融)を起こして、核燃料が溶け出し、圧力容器の底が抜けている状態であるのに「冷温停止」という言葉を使うことを疑問視する専門家の声もあった。収束ムードの演出はあまりに早すぎた▼キセノンは「奇妙な」「見知らぬ」などを意味するギリシャ語に由来する。人為ミスが原因で止まった原発を住民の意見も聞かずに強引に再稼働させようとする電力会社、事故の検証もおぼつかないのに原発の輸出に踏み切ろうとする政府…。どちらも奇妙に映る。