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2011年11月3日(木)付

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核分裂の疑い―炉内の混沌を忘れまい

核分裂の疑いがある。もしかしたら、一時的に小さな臨界が起こった可能性もある。東京電力は福島第一原発2号機についてこんな発表をした。とても気になる話である。[記事全文]

文化の日―多様な感受性のために

小さな端末やスマートフォンに、音楽や本を入れて、いつでもどこでも楽しめる。先月亡くなったスティーブ・ジョブズさんは、そんな世界を開いた一人だった。[記事全文]

核分裂の疑い―炉内の混沌を忘れまい

 核分裂の疑いがある。もしかしたら、一時的に小さな臨界が起こった可能性もある。

 東京電力は福島第一原発2号機についてこんな発表をした。とても気になる話である。

 核分裂とは何か。

 福島第一の事故炉では今も、残った核物質が緩やかに壊れているが、これは核崩壊という。

 一方、運転中の原子炉の核燃料で起こる現象が核分裂だ。原子核が、飛んできた中性子によって割れるように壊れる。

 このとき、また中性子が出るので、別の原子核の分裂を引き起こすことがある。これが続くのが「臨界」だ。

 この連鎖反応によって、原子核の膨大なエネルギーをとりだすのが原発である。

 裏を返せば、燃料や制御棒が秩序だって並ぶことなく、混沌(こんとん)の極みにある事故炉で臨界はあってはならない。

 核分裂の規模によっては、そんな臨界を引き起こし、場合によっては制御できない不測の事態を招きかねない。

 今回は、原子炉格納容器の気体を浄化するシステムを動かしてまもなく、その気体から、核分裂の痕跡といえるキセノン133、キセノン135らしい放射性物質が見つかった。違うものをみたおそれもあったが、経済産業省原子力安全・保安院が本物と判断した。

 これらの半減期は数日以内なので事故発生時ではなく、今の2号機内の様子を反映していることになる。浄化システム立ち上げ直後の検出なので、こうした状況は続いているとみるべきかもしれない。

 事故炉の温度や圧力に大きな変動はないようだが、核分裂の可能性がある以上、臨界を食いとめる手を急いで打たなくてはならない。臨界を抑える働きがあるホウ酸水を、東電が直ちに注入したのも、そんな危機感の表れだろう。

 政府は9月末に、炉の冷却が安定して進み、緊急事態が起こる可能性が極めて低くなったとみて、半径20〜30キロ圏の緊急時避難準備区域を解除した。いま福島第一原発は、政府が年内をめざす冷温停止状態に近づいているように見える。

 だが事故炉やその格納容器のなかのことを思い浮かべれば、そこには、溶け落ちて燃料の原形をとどめない核物質がある。

 政府は事故処理を進め、周辺住民の生活を元に戻してゆく責任があるが、工程表の期限を優先するあまり、こうした現実を見過ごしてはならない。

 核分裂の痕跡を重い警鐘と受けとめたい。

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文化の日―多様な感受性のために

 小さな端末やスマートフォンに、音楽や本を入れて、いつでもどこでも楽しめる。

 先月亡くなったスティーブ・ジョブズさんは、そんな世界を開いた一人だった。

 いま私たちは、先人や同時代の知と創造、つまり文化のめぐみをデジタル化された形でたやすく手にできる。新しい表現も軽々と国境をこえてゆく。

 そんな手軽な楽しみ方に慣れっこになっていたときに、東日本大震災が起きた。

 音楽家や美術家ら多くの表現者が被災地に入り、歌や演奏、ワークショップをとおし、再び立ち上がる人々に明るさを与えた。一冊の本が、一つの歌が、あるいは一枚の絵が、心を和らげたこともあるだろう。

 何よりも、地元に伝承する祭りや郷土芸能が、ともに生きているという事実や共同体のぬくもりを示したのではないか。

 文化は、被災地のことを伝えるつなぎ手にもなりうる。

 多くの写真家が被災地の写真を発表しているだけではない。この夏、東京芸術大の美術館で開かれた「今、美術の力で」展は、被災県の美術館が持つ絵画や彫刻をならべたものだった。それだけで、「かの地にはこれだけの蓄積があり、生き抜いたのだ」と思わせた。

 ベネチア国際映画祭で主演2人が新人賞を獲得した園子温(しおん)監督の「ヒミズ」(来年公開)も震災を扱っている。といっても暴力シーンがあり、被災者のえがき方も含め、多くの共感を得るのは難しいかもしれない。

 ただこの映画は、世の中が「がんばれ」に覆われていることへの違和感に貫かれている。そして過剰な表現のはてに、個人の言葉として「がんばれ」を叫び直している。

 多くの人々の胸にひびき、ときに励ますのが文化なら、必ずしも多数派ではない思いや感受性をともにし、寄り添うのも文化だろう。新しい技術もそれを支える。震災をへて、その姿をあらためて確認させられた。

 きょう文化の日。文化勲章を受ける作家丸谷才一さんには、戦時下に少数派の立場をとった人が登場する作品がある。種田山頭火(さんとうか)をめぐる推理小説といえる「横しぐれ」にも反戦教師が登場する。

 「自由と平和を愛し、文化をすすめる」と定められた日の趣旨に、この作品は通じている。今では電子書籍として、いつでもどこでも読める存在になっている。

 そして、さらに豊かで多様な文化を進めるためにも、被災地の復興を切に願う。

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