生物多様性条約第十回締約国会議(COP10)から一年。名古屋議定書採択時の熱気も、震災の混乱の中に埋もれた感がある。だが、生物多様性の保全は、震災復興にも大きくかかわる問題だ。
一年前、名古屋国際会議場は、百九十三の国と地域の代表の拍手と興奮に包まれた。最終日の日付を越えた十月三十日未明、ぎりぎりの局面で、名古屋議定書と愛知ターゲットは採択された。
名古屋議定書は、生物資源が豊富な途上国と製品化の技術を保持する先進国が、薬品の原料や食料などとして生き物から得られる利益を、公平に分け合うためのルール。愛知ターゲットは、加速する生き物の絶滅に歯止めをかける新たな戦略目標だ。
南北の利害が激しくぶつかり合う中、最終日の朝、日本政府が急きょ示した議長案が流れを変えた。日本が国際社会のルールづくりをリードした希少な例だ。
議定書は五十カ国が批准を終えると効果を発揮する。批准国はまだないが、現在六十以上の国や地域が国連署名を終えて参加の意思を示しており、来年十月、インドで開催されるCOP11までに発効する可能性も見えてきた。
だがそれは、あくまでも大枠を定めたルールにすぎず、交渉の窓口、手順はどうするか。安全で公正な取引をどのように監視、保証するかなど、具体的な体制づくりは、各締約国の仕事になる。
国内の体制をできるだけ早く整え、率先して批准するのが、COP11までは議長国を務める日本の責任だ。議定書の発効が遅れれば、乱獲、乱伐による生き物への被害もそれだけ進み、愛知ターゲットの達成にも支障をきたす。
東日本大震災は、地域の生態系にも巨大な爪痕を残した。東北では、世界有数の豊かな漁場や水田が壊滅的な被害を受けた。生物多様性の保全や復元への取り組みは、被災地の再建とも無関係ではありえない。
COP10の成果を受けた生物多様性国家戦略の改定作業が始まった。新戦略には震災復興や防災の視点も織り込みたい。
生物多様性に配慮した復興を考えようと、東北大は企業や非政府組織(NGO)と協力し、「海と田んぼからのグリーン復興プロジェクト」を始動させ、被災地沿岸の生物調査を進めている。名古屋市は「なごや生物多様性センター」を開設した。政府による手続きとは別に、このような地域の活動ももり立てたい。
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