三菱重工業などの防衛産業大手に続き、外務省や衆議院へのサイバー攻撃が判明した。日本の中枢が集中的に狙われている。強い防御の仕組みを急いで築くとともに危機意識を最大限に高めたい。
外務省とアジアや欧米の在外公館にウイルスを仕込んだメールが送りつけられ、一部の在外公館で感染が判明した。
共同通信によれば、二十近い中央省庁がサイバー攻撃に遭っていた。防衛や外交にとどまらず、政府機関全体が標的にされているとみて間違いない。
衆議院では議員の公務用パソコンにウイルスが感染し、それを介して事務局のサーバーに侵入された。議員や秘書のIDとパスワードが盗み出せる状態に陥った。
秘密情報が抜き取られ、悪用されると大変だ。安全保障や経済活動、公共インフラといった国の根幹が脅かされかねない。
今のところ重要情報の流出はないというが、懸念は拭えない。政府と国会、加えて裁判所などの公的機関は深刻な情報漏れがないかどうかいま一度調べるべきだ。
攻撃手法で多いのは、狙いを定めた相手にメールを開封させてウイルスを感染させる標的型だ。パソコンの遠隔操作ができてしまう。世界的な脅威になっている。
対抗するには、まず端末の利用者が最大限に危機意識を高めたい。ウイルス対策ソフトをいつも最新に保つのは当然だが、見慣れないメールの添付ファイルやウェブサイトのアドレスを不用意に開けない心構えが大切だ。
国内外の秘密情報を扱う公的機関や民間企業では、情報セキュリティーの専門家を交えた教育や訓練、即応態勢の仕組みをしっかりと整えておく必要がある。
急速に巧妙化、高度化する攻撃能力に備えるには、官民が連携して被害情報を共有する体制も不可欠だ。ウイルスの種類や感染の手口を素早く分析し、被害の拡大を食い止めなければならない。
万が一、秘密情報が流出した場合、警察当局の捜査と並行して事態の収拾に動く司令塔役はいったいどこが担うのか。
政府の防御対策の中核に位置づけられている内閣官房でさえ、外務省への攻撃を知らされていなかった。衆議院は三権分立を理由に被害情報を提供しなかった。
政府の縦割り構造や三権分立の建前、民間企業の隠蔽(いんぺい)体質が攻撃側に隙を与える恐れがないか。サイバー空間の一体的な安全網づくりが求められる。
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