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天声人語

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2011年11月1日(火)付

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 人気(ひとけ)のない別荘地で耳を澄ますと、四方の森がカサコソと鳴いている。紅葉から落葉へ、晩秋の囁(ささや)きである。靴より大きなホオノキの葉を踏みながら、北軽井沢を歩いた▼道端で丸まるモミジを、時おり北風が転がす。山麓(さんろく)の牧場では冬支度の牧草ロールが、発酵を促す白いビニールにくるまれていた。標高1100メートルの高原に吹く風は、秩父山地を越え、武蔵野を渡り、東京で木枯らしになる。小春日がうれしい霜月である▼北軽井沢が舞台の映画に、日本初の長編カラー作品「カルメン故郷に帰る」がある。高峰秀子さん演じる誇り高きストリッパーが、牧場の村に帰ったのも秋だった。公開は60年前。青空に白煙を吐く浅間山と、真っ赤な口紅の対照は、当時の地方と東京の距離でもあろう▼村での公演を渋る校長先生に、カルメンの父親が頭を下げる。「日本のど真ん中で踊ってる踊りなら、この山ん中だって立派なもんに決まってまさあ」。家を、古里を捨てた娘にも、肉親や村人は優しかった▼〈帰る家もどる巣ありて秋の暮(くれ)〉木内怜子。今年は数万人が「帰るべき故郷」や家を奪われたまま、心身にぬくもりが要る季節を迎える。国中が故郷になり家になり、被災者を支えたい▼カルメンが降り立った北軽井沢駅を訪ねた。撮影から程なく鉄路は廃止され、駅舎のみが残る。交通はバス、マイカー、新幹線と移ろい、東京と地方は似た色になった。銀幕と変わらぬ浅間山の稜線(りょうせん)を仰ぎ、転変やまない人の世の哀れを思った。

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