HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 30 Oct 2011 20:21:39 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 「プラスサム」の世界に:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 「プラスサム」の世界に

 環太平洋連携協定(TPP)の交渉参加をめぐる議論が熱を帯びています。さまざまな反対論が出ていますが、自由貿易の原点に立ち返ってみたい。

 まず反対論から紹介します。

 民主党内の論議では「TPPで輸出が増えることはありえない」とか「米国から国内制度の改変を迫られる」といった意見が出ました。「いったん参加してしまえば撤退できない」とも。

 鳩山由紀夫元首相は最近、野田佳彦首相との会合で「何でも米国のいいなりになってはいけない」と忠告したそうです。

◆誤解には丁寧な説明を

 こうした反対論には誤解に基づく部分もあります。

 たとえば医療制度。TPPに加われば、保険内と保険外を組み合わせた混合診療の解禁につながって、結果として公的医療が崩壊するという懸念の声がありました。しかし、そもそもTPP交渉で混合診療は議題に上っていません。

 「単純労働者が増える」という話も同じで、議論しているのは商用目的のビジネスマンに対する滞在条件をどう緩和するか、といった問題です。

 いまは交渉に参加していないだけに「日本の仕組みを根本的に変える、とんでもない話をしているのではないか」という疑念が膨らんでいるようです。

 政府は交渉参加を表明するなら、丁寧な説明が必要です。

 ただ、もう少し根の深い問題もある。その一つが鳩山元首相も言った「米国のいいなり論」でしょう。これは「TPPは市場万能主義の権化」「米国の策略」といった主張にもつながっています。

 基本的な構えとして、国益にプラスでないなら参加すべきではない。逆に米国の要求がどうあれ、日本が自分で考えてプラスなら積極的に踏み出すべきなのです。

◆外交とは違う貿易交渉

 この議論は外交防衛と貿易通商の根本的な相違点に触れている面があります。まず外交防衛は非常にしばしば「相手のプラスが自分のマイナスになる」関係にある。たとえば領土問題で自分が領土権を譲れば、直ちに相手の領土拡張になってしまう。これを「ゼロサム(足してゼロになる)ゲーム」といいます。

 この理解を単純に貿易通商にあてはめると「日本が譲れば米国の得点になって、あっちが得するだけじゃないか」という話になります。しかし、そうではない。

 自由貿易は自分も相手も損をせず、やがて双方がプラスになる関係です。貿易通商はゼロサムではなく「プラスサム(足してプラスになる)ゲーム」なのです。

 たとえば双方が関税をゼロにすれば、互いに得意とする物品を交換するようになる。その結果、双方が国内にある資源をより効率的に使って生産や消費を伸ばせるようになる。これは「比較優位」といって、国際経済学のもっとも基本的な定理でもあります。

 ゼロサムの外交では互いが譲らず、最終的に戦争になる場合もある。ところが通商交渉は難航しても「もう自由化はやめだ」という話にならないのは結局、双方が得すると分かっているからです。

 日本がこれまで世界貿易機関(WTO)の多角的交渉やシンガポールなどとの自由貿易協定(FTA)に取り組んできたのも、とりわけ資源がない国に自由貿易が国益に沿うからでした。他国に強制されたからではありません。

 さらに言えば「TPPは米国の対中国包囲網の一環」という話も聞かれます。外交防衛でいう「米国勢力圏」とか「中国勢力圏」といった話に広がりそうですが、これもおかしい。

 米国も中国もアジア太平洋経済協力会議(APEC)の加盟国であり、将来はアジア太平洋の国と地域が集まって壮大なアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)をつくる構想で一致しています。つまり米国も中国も同じ自由貿易圏のゴールを目指しているのです。

 TPPが掲げているのは「例外なき自由化を十年間で達成する」という野心的な目標です。しかし、米国でさえ「乳製品や砂糖を例外扱いにすべきだ」と主張している。どんな交渉にも本音と建前がある。旗を高く掲げていたとしても、話が煮詰まってくれば「例外をどうするか」が最大のテーマになるでしょう。

 いまが交渉の最終局面でもありません。「少なくとも、あと五回は交渉をしないと着地点が見えてこない」といわれています。

◆現状維持は衰退への道

 「もう日本はこれ以上、自由化しないのだ」という道もあります。しかし、現状維持は衰退への道です。なぜなら他国が自由化した分だけ日本が相対的に不利になるからです。他国同様、日本が痛みを伴っても次の一歩を踏み出せるかどうかが問われています。

 

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