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脱原発を掲げるドイツで、風力、太陽光、バイオマスといった自然エネルギーが急速に普及している。先週来日したウルフ大統領は「ドイツは原発論議に終止符を打ち、新しい方向に向か[記事全文]
国が放置してきた制度の矛盾のつけを、小さな町に押しつける。そんなやり方ではないか。沖縄県八重山地区の中学の公民教科書選びで、石垣市、与那国町、竹富町の間で意見対立が続い[記事全文]
脱原発を掲げるドイツで、風力、太陽光、バイオマスといった自然エネルギーが急速に普及している。
先週来日したウルフ大統領は「ドイツは原発論議に終止符を打ち、新しい方向に向かっている」と語った。これまでの実績への自信からだろう。
水力を含む自然エネルギーによる発電の割合が今年1〜6月、初めて20%を突破した。発電実績では過去10年で約3倍の伸びだ。日本の自然エネルギーの比率は9%で、水力を除けばわずか1%にすぎない。
ドイツは、電力消費に占める自然エネルギーの割合を、2020年までに35%に高める目標を掲げる。その達成が視野に入ってきた。
原発は、電力供給の約23%をまかなっていたが、福島第一原発の事故後、メルケル政権は原発17基のうち老朽化した8基の運転を止めた。残りの運転も22年までに順次止める。
自然エネルギーが伸びる背景には、こうした脱原発の明確な方針が世論の支持を受け、産業界や個人の投資意欲を刺激していることがあげられよう。
それを下支えしているのが、自然エネルギーによる電力を長期間、電力会社に固定価格で買い取らせる仕組みだ。スペインでは高値での買い取りが投機を引き起こし、制度の崩壊を招いた。その教訓から、ドイツは市場の状況や政策目標にあわせて制度を改善している。
太陽光では、生産増によるコスト減にパネル販売台数を加味して、買い取り価格を切り下げる。拡大を期待する洋上風力発電の価格は上げる。なかなか巧妙だ。電力自由化で新規参入が容易になった効果も大きい。
むろん脱原発の実現までにはまだ多くの課題がある。
原発8基の停止で、フランスなどからの電力輸入が一時増えた。輸入に頼らない方針を貫くには、基幹エネルギーである石炭火力の効率向上や増設を進めねばならない。風力による電力を南部の消費地に送る新たな送電線の建設も難題だ。
日本は、一足先に来日したフランスの首相との間で、原発の安全強化を中心に連携を強化することで合意した。一方、ドイツは風力発電を補う蓄電技術での協力で日本に期待を寄せる。
自然エネルギーの普及で出遅れた日本にとって、ドイツとの協力には大きな意義がある。
来年7月から、日本でも自然エネルギー電力の全量固定価格買い取りが始まる。政府や電力業界はドイツの経験やノウハウを大いに吸収してほしい。
国が放置してきた制度の矛盾のつけを、小さな町に押しつける。そんなやり方ではないか。
沖縄県八重山地区の中学の公民教科書選びで、石垣市、与那国町、竹富町の間で意見対立が続いている。そこで文部科学省が示した見解のことだ。
「新しい歴史教科書をつくる会」系の育鵬社版を選んだ採択地区協議会の答申を有効とし、それと異なる東京書籍版を採択した竹富町には、教科書を無償で支給しない。ただし町の財源で東京書籍版を買い、配るのは構わない――。
これでは、小中学校で学ぶ子どもの教科書は国の費用でまかなうという制度に、穴があく。「義務教育無償」を定めた憲法26条の精神を、より広く実現するための大切な柱なのに。
竹富町は猛反発している。そもそも地区協議会での選定のしかたに問題があったのだと、竹富町は主張してきた。
混乱のもとは、いくつかの市町村が共同で同じ教科書を選ぶ広域採択制度にある。1963年にできた教科書無償措置法で定められたしくみだ。
小さな町や村では独自の教科書研究は難しい。まちごとに教科書が違うと、教科書会社から届けるのにも効率が悪い。だからある程度まとまって選ぶのがいい、と文科省は説明する。
そうやって採択された教科書を、国が買い、市町村に無償で渡すことになっている。
一方、地方教育行政法では採択権限を持つのは市町村教育委員会。同じ採択地区で、最後まで市町村の考えが合わないときは、解決の手がない。この矛盾が放ったらかしだった。
文科省の見解は、その中であれこれと法律解釈を重ねた、苦肉の策でもあろう。
だが、効率のために作られたルールに従って、憲法の精神がないがしろにされるなんて、おかしなことだ。救済の手立てはないものか。
広域採択制度には、ほかにも弊害がある。広い範囲で同じ教科書を使うことで、教科書会社は大手の寡占化が進んだ。検定の縛りもあって、内容も似たり寄ったりになりがちだ。
だが本来は、地域や子どもの事情に合わせ、教科書も色とりどりであっていい。多様な学びを、国が財政的に支える。それがあるべき姿だろう。
文科省は、教科書採択制度の改革に本気でとりくむべきだ。広域採択のしくみはただちに見直す。将来は学校ごとに選べるよう、道をつける。各地の教委も選び方を改めて考える。
急いで議論を進めてほしい。