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寺山修司のギャンブル論に、ファンは「負けるべき必然」に賭けている、というのがある。偶然の勝ちより、やはりだめかの安心感を楽しんでいると。だからこそ「賭博には、人生では決して味わえぬ敗北の味がある」となる▼今、大王製紙の井川意高(もとたか)前会長(47)がかみしめる「必然」はどんな味だろう。子会社から私的に106億円超を借りた件で、特別背任罪に問われるかもしれない。未返済は60億円ほど。かなりの大枚が海外でのカジノ遊び、寺山を気取れば「テーブルの上の荒野」に消えたらしい▼井川氏の祖父が四国で興した同社は、「エリエール」のブランドを育み、いまやティッシュとトイレ紙の首位メーカーである。なのに氏は、グループの経理担当者を自家用ATMのごとく使っていた▼かつて取材した金融界の異端児を思い出す。裸一貫から身を立てた人で、「銀行の私物化と言うけどね、もともと私物なんだから」と臆面もなかった。同じ製紙業界にも、ゴッホやルノワールを買いあさり、「私が死んだら棺おけに」と放言したワンマン経営者がいた▼そうした「個人商店」から脱することが大王製紙再生の道なのに、社長は「井川家の排除はありえない」と及び腰。こびりついた同族経営の淀(よど)みは、ティッシュで拭えるほど柔じゃない▼遊び方や負けっぷりの解明は、東京地検の捜査に委ねられる。「負けに不思議の負けなし」という。前半に勝ち続けた3代目の人生ルーレット、おけらで始まる後半やいかに。