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原子力や放射線のことをどう教えるか。原発事故の後、先生たちが頭を悩ませている。日本の教育の場には、長い長い空白があった。「放射性元素の原子は、放射[記事全文]
「団塊世代」が住みなれた地域で先々、安心して老後を過ごせるように――。そんな狙いを込めた新しい賃貸住宅の制度が今月から始まった。「サービス付き高齢者向け住宅」という。該[記事全文]
原子力や放射線のことをどう教えるか。原発事故の後、先生たちが頭を悩ませている。
日本の教育の場には、長い長い空白があった。
「放射性元素の原子は、放射線を出してほかの元素の原子に変わる」。中学校の理科でこう習ったのは、40歳代半ばから上の世代だ。1980年代以降は「ゆとり教育」で学ぶ内容が減らされ、放射線にかかわる授業はなくなった。
一方、原発推進という国策に沿った「原子力教育」は進められた。教科書検定では、原発に触れた記述にたびたび意見がつく。「原発から放射性物質がもれることはない」などと記した副読本を、政府が配った。
ただ、そうした教育に熱心な先生は多くはなかった。賛否が分かれることは、避けるのが無難。そんな空気もあった。
結果として、原発やその問題点に無関心な国民が数多く生まれた、とは言えまいか。教育界も反省を迫られる。
次の春から本格実施される中学の学習指導要領では、3年生で放射線の授業が復活する。自然界にも放射能があること、医療で使われることを解説し、その有用性に力点が置かれる。事故の前に決まった内容だ。
原発事故を受け、文部科学省は小中高校生向けに、それぞれ新しい副読本をつくった。
さすがに原発の安全性を強調する記述はなくなり、放射線の人体への影響や、身を守る方法にページを割いた。「低い放射線量を受けた場合、がんになる人が増えるかどうかは明確ではない」とも説明。福島事故による放射能汚染の広がりには、踏み込んではいない。
空白を埋めるには、まだまだ不十分だろう。研究や実践を重ね、地域の声も聞き、新しい授業を組み立てるしかない。
「放射能と放射線はどう違うの」。見えないだけに難しい。でもそうしたことを入り口に、身を守るための学びが始まる。無用な不安や偏見を生まないようにすることも大切だ。
そのうえで、放射線の危険性と利点をきちんと教える。事故のことや原発をめぐる議論も、子どもに投げかけてほしい。異なる考え方を理解し、科学の知識をもとに自ら判断し、行動する力を身につけさせる。
日本の先生たちは、正解が定まらないこと、不確かなことを学ばせるのは苦手だった。
けれども、放射線のリスクに向き合い、原子力のあり方を考えることは、これからの世代にこそ切実な課題である。
教育の役割は重いのだ。
「団塊世代」が住みなれた地域で先々、安心して老後を過ごせるように――。そんな狙いを込めた新しい賃貸住宅の制度が今月から始まった。
「サービス付き高齢者向け住宅」という。該当するマンションを建てたり、改築したりする際、国が補助金をつける。今年度は325億円を計上した。税制や融資の優遇措置もある。
これに伴い、従来の高齢者専用賃貸住宅制度は廃止された。何が変わったのか。
1戸あたり原則25平方メートル以上など建物の基準に大差はない。最大の違いは、日中はスタッフを常駐させ、少なくとも安否確認をし、生活相談にのるという「サービス」の提供を義務づけたことだ。
基準をクリアした物件は都道府県などに登録され、情報が公開される。
制度を担当する国土交通省と厚生労働省は「高齢者単身・夫婦世帯が安心して居住できる住まい」とアピールする。サラリーマンOB世帯の住み替えのほか、42万人いる特別養護老人ホーム(特養)待機者の中で要介護度が低いお年寄りの入居を想定している。
しかし、課題は多い。
見守りや相談だけでは、高齢者やその家族が抱く将来への不安に応えられない。心身が弱ったとき、どうやって必要な介護が受けられるようにするか。
新制度の住宅は、そこに住めば介護が受けられる特養などの施設とは違う。介護は事業者と個別に契約することになる。同じ建物の1階に事業者が入るのが標準とされるが、介護はあくまで「外付け」である。
寝たきりになってもずっと過ごせるようにするには、在宅介護の充実が不可欠だ。
人材の確保が難しい夜間を含め、施設と遜色ない安心感を訪問介護で実現するのは容易ではない。現状でそこまで対応できるのは、一部の事業者に限られるとの見方が強い。
厚労省は、審議会でヘルパーの定期的な巡回と緊急時の対応を組み合わせた24時間対応型の新しいサービスの内容を議論している。知恵を絞って欲しい。巨額の補助金を投じて、中途半端な賃貸マンションを大量に建てただけ、という結果になったら元も子もない。
民間資本を活用しつつ、安心して暮らせる住宅と、施設に依存しない介護サービスを整備することは間違っていない。
実際の登録や指導・監督の権限をもつ自治体も、住宅と福祉部局が緊密に連携して、新制度の実をあげて欲しい。