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震災復興、原発事故の収束、日本経済の再生に向け、第3次補正予算と関連法を一日も早く成立させる。野党との「共同作業」で責任を果たしたい。野田首相がきのうの所信表明演説に込[記事全文]
長く論争が続いてきた「混合診療」禁止の是非をめぐって、最高裁の判断が示された。健康保険からお金が支払われる「保険診療」と、保険がきかない先端技術や薬を使う「自由診療」と[記事全文]
震災復興、原発事故の収束、日本経済の再生に向け、第3次補正予算と関連法を一日も早く成立させる。野党との「共同作業」で責任を果たしたい。
野田首相がきのうの所信表明演説に込めたメッセージは、単純明快だ。
東北には冬の足音が近づく。速やかに被災者の生活を再建し、将来に希望が持てる環境を整える。それが政治の仕事だ。
その財源として、首相は時限的な増税を求めた。
「欧州の危機は対岸の火事ではない」「(日本で)きょう生まれた子ども1人の背中に700万円を超える借金がある」
首相が語った財政への危機感は、私たちも共有する。歳出削減や増収策を徹底しても、なお足りない部分を国民が分かち合うのはやむを得まい。自民、公明両党と復興増税の期間などの詰めの協議を急ぐべきだ。
それにしても、である。
9月以来、2度目の首相の所信表明なのに、あまりにも首相の覚悟が見えない。「安全運転」はわかるが、これで政治が動くのかと心配になる。
典型例が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加問題だ。前回の演説はこうだった。
「しっかりと議論し、できるだけ早期に結論を出します」
あれから1カ月半、政府・与党も野党も議論してきた。すでに野田政権が交渉参加の方向で意見集約をめざしているのは、誰の目にも明らかだ。
それなのに今回はこうだ。
「引き続き、しっかりと議論し、できるだけ早期に結論を出します」
これはつまり、党内調整が大詰めを迎えているいま、自分が余計な発言をすることで波風を立てたくない、ということか。
この態度は明らかに国会演説の意義を軽視している。国民への説明を避けているに等しい。
国民注視の原発・エネルギー政策の方向性もまだ抽象的だ。政治家が身を切る覚悟を強調しながら、定数削減の具体策は与野党任せである。臨時国会のテーマではないとして、社会保障には触れもしない。
しかし、就任2カ月の首相に求められているのは、国民に率直に信念を訴え、理解と支持を得ることだ。それが政策を収斂(しゅうれん)する力にもなる。
首相は演説の冒頭と結びで、全国会議員に政治家の「覚悟と器量」を求めた。それなら、まず首相が示すべきだ。
20年以上の早朝の街頭演説を政治活動の原点という首相ならば、もっと「言葉の力」を見せてほしい。
長く論争が続いてきた「混合診療」禁止の是非をめぐって、最高裁の判断が示された。
健康保険からお金が支払われる「保険診療」と、保険がきかない先端技術や薬を使う「自由診療」とを組み合わせたものが混合診療だ。この場合、医療費全額が保険の対象外となる。
患者の負担が大きすぎる。保険診療分はそのまま認めるのが筋だ。原告はそう訴えたが、最高裁は請求を退けた。
「医療の質の確保や財政の制約などを考えれば、保険の範囲を制限するのもやむを得ず、法の下の平等などを定めた憲法に違反しない」との判断だ。
制度の全体や国会での議論を吟味しての結論だが、判決は健康保険法の難解さ、あいまいさを繰り返し指摘している。
人々の健康や生活に深くかかわる法律なのに、読んでも分からない。肝心なことはチェックの甘い省令や通達で決める。こうした例は珍しくない。
政府と国会の責任は重い。
官僚は法案づくりにあたる姿勢を改め、議員は国民の存在を常に念頭において審議にのぞんでもらいたい。
混合診療に関しては、「制約を取り払えば、新しい薬や治療法が利用しやすくなり、患者のためになる」との全面解禁論がかねて主張されてきた。
一方で、自由診療が広がると薬などの安全性の確認がおろそかになる、お金のあるなしで受けられる医療に大きな差ができてしまう、といった慎重論も根強い。患者や家族の間でも意見が食い違う。
判決は、混合診療を原則禁止する政策を違憲・違法とはいえないと述べただけで、積極的に支持したわけではない。「過剰な規制だ」との批判に理解を示す個別意見もあった。
制度は5年前に見直され、審査を通った治療法であれば、混合して使っても保険診療分についてはお金が支払われる道が広がった。さらにその治療法自体に保険がきくようになるケースも多い。解禁、慎重双方の声をくんだ仕組みといえる。
この「管理された混合診療」に適切に取り組み、弊害を抑えつつ患者の選択の幅を広げていくことが大切だ。審理にあたった裁判官5人のうち3人が、今後の運用に期待と注文を寄せているのを、医療行政に携わる者は真剣に受け止めてほしい。
この問題は、厳しい財政事情の下、広く国民に提供する医療水準をどう定め、社会の合意をいかに形成していくかという重い課題に行き着く。判決を、議論を深める足がかりにしたい。