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うそには三種類ある、と言ったのは19世紀英国の宰相ディズレーリだった。すなわち、ふつうのうそ、ひどいうそ、そして統計数字であると。統計にかぎらず数字は水もので、たとえば質問の仕方でがらりと変わる▼いささか古い国内の例だが、「規則を曲げて無理な仕事をさせることもあるが、仕事以外でも人の面倒をよく見る」という課長を良いと答える人は84%いた。ところが前後を入れ替えて、「仕事以外でも人の面倒をよく見るが、規則を曲げて無理な仕事をさせることもある」だと47%に減ったそうだ▼客観的で、感情を省いたように粧(よそお)いつつ、ときに裏で舌を出しているところに数字の怖さがある。「試算」もしかりだろう。前提や条件のつけ方で違ってくる。内閣府の原子力委による「原発事故のコスト試算」も、どうも覚束(おぼつか)ない▼事故への対応にかかるコストは「1キロワット時あたり最大で1.2円」という。だが試算の過程で「低値誘導」されているようだ。もとになる今回の事故の損害額が、ずいぶん低く設定されているとの指摘も聞こえてくる▼高くなれば火力などへの経済的優位は崩れる。ゆえに思惑で丸め込んだとも評される。「脱原発」を情緒的と指さす産官学の、それこそ情緒的な数字いじりではないのだろうか▼夏の電力需給の試算や節電目標が実は怪しかったことも後で分かった。数字は無私だが、背後には良くも悪くも人がいる。何によらず、吟味する心がけは、私たちメディアの自戒でもある。