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10月27日付 編集手帳

 その詩に接したのは、長野県松本市に「旧制高等学校記念館」を訪ねたときである。〈恋人よ/この世に物理学とかいふものがあることは/海のやうにも空のやうにも悲しいことだ…〉◆物理の答案用紙に書かれた詩は以下のようにつづく。〈僕等(ぼくら)には/クーロンの法則だけがあれば澤山(たくさん)だ/二人の愛は/距離の二乗に反比例する/恋人よ/僕等はぴつたりと抱き合はう〉◆「斎藤宗吉」と名前の欄にあった。旧制松本高校に在学していた頃の北杜夫さんである。作家は処女作に向かって成熟していく――文芸評論家、亀井勝一郎の言葉を思い出す◆透明な抒情(じょじょう)と、憂いを底に沈めたユーモアは、処女作以前、高校時代の答案にもすでに形をなしていたらしい。“どくとるマンボウ”シリーズなどで知られる北さんが84歳で亡くなった◆医学生当時の日記の一部が『どくとるマンボウ青春記』(新潮文庫)に採録されている。その一節。〈僕は粘度が欲しい。執念ぶかい蛇のような粘液質を。()(ちゅう)類のごとき冷酷な意志を〉。どちらとも生涯無縁であった北文学の魅力を、若き日のご本人が語っているようでもある。

2011年10月27日01時31分  読売新聞)

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