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原子力発電にかかる費用は、高かった。福島第一原発事故による損害はあまりに大きく、まだ全体を計算できない。だが、今わかっている範囲で、内閣府の原子力委員会が発電費用への上[記事全文]
外交が国内政治の制約を受けることはままある。だが、ここまでこじれたら、もう動かしようがない。沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題は、完全に暗礁に乗り上げた。このほど来日した[記事全文]
原子力発電にかかる費用は、高かった。
福島第一原発事故による損害はあまりに大きく、まだ全体を計算できない。だが、今わかっている範囲で、内閣府の原子力委員会が発電費用への上乗せがどうなるか試算した。事故のコストは電気1キロワット時あたり最大で1.2円になった。
今回、原子炉3基で炉心溶融が起きた。日本にある約50基の原発の運転年数を足し、福島の事故炉の数で割ると、この規模の事故は平均して「原発1基あたりで、ほぼ500年に1度発生する」確率になる。その計算から割り出した。
この事故コストを加えると、原子力発電のコストは1キロワット時あたり6.8円になる。石炭火力の5.7円や、液化天然ガス火力の6.2円を上回る。
いずれも大ざっぱな計算であり、今後は膨大な除染もある。また、全国の原発から出る放射性廃棄物の最終処分も残り、さらに割高になるのは確実だ。
これまで「安く、安全に大量の発電をする」と宣伝されてきた原発だが、事故の危なさに加え経済面の優位も崩れた。
原子力委はもう一つの計算もした。日本は、使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取りだし、それを燃やす「再処理路線」をとる。これは1キロワット時あたり2円かかる。
一方、ウラン燃料を1回だけ燃やして、廃棄物は捨てる「直接処分」の費用は半分の1円で済むことがわかった。
この差は大きい。もし、直接処分に変えれば、発電コストは1円安い5.8円になる。
原子力委は7年前にもこの比較をした。結果は今回とほぼ同じだったが、再処理の路線を変えなかった。理由は「政策変更コスト」だった。「過去の投資が無駄になり、新たな研究も必要だ。立地自治体との関係も悪くなる」という論法だ。
もう同じ手は使えない。事故を経験した今は、国民の原発への不信が大きい。高い費用をかけて「ウラン燃料を少し節約する」再処理に説得力はない。
二つのコスト計算は、数字で日本の原子力の現状を浮かび上がらせた。
戦後一度も大きく変えることのなかった原子力政策を変更するときだ。政府のエネルギー・環境会議の責任は大きい。
原発をなくす道に向き合うしかない。同時に、必要性が疑問になった核燃料再処理から撤退する議論も始めよう。政府は今度こそ、政策変更コストに取り組まなくてはいけない。
その準備を始めるときだ。
外交が国内政治の制約を受けることはままある。だが、ここまでこじれたら、もう動かしようがない。
沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題は、完全に暗礁に乗り上げた。このほど来日したパネッタ米国防長官の日本側担当閣僚との会談が厳しい現実を映し出していた。
一川防衛相との普天間問題の協議で一致できたのは、名護市辺野古沖への移設を約束した日米合意を可能な限り早く進めるという原則だけだった。
防衛相は新滑走路の建設に必要な環境影響評価(アセスメント)の評価書を年内に沖縄県に提出すると米側に伝え、歓迎されたという。
けれど、その先がない。
国内では民主党政権と沖縄との信頼関係は切れたままだ。地元の名護市長は反対だし、県議会も一致して県外・国外移設を求めている。
米政府にも苦しい事情がある。巨額の財政赤字を減らす一案として、普天間移設と連動する在沖縄海兵隊のグアム移転費が取りざたされているのだ。
この予算を守るため、オバマ政権は普天間問題の進展を議会にアピールしたい。「アセス」は、そのための演出といえる。米議会対策のため、日米両政府が日米合意を呪文のように唱えているという図式なのだ。
アジア・太平洋地域はいま、台頭する中国をどのように安定的秩序に組み込むかという重要な課題に直面している。パネッタ長官が東京での記者会見で、「米国はアジアにおけるプレゼンスを維持・強化する」と述べたのは、この点を重視するというメッセージだった。
対中政策でどのような構想を描くのか。日本はどんな役割を果たすのか。中長期的には、日米が最優先で話し合うべき課題のはずだが、普天間問題が入り口をふさいだ格好で、議論に踏み込めない。
この10年間のアフガニスタン情勢で明らかなように、力に頼る米国の戦略は限界にぶつかっている。多極化する世界で、相対的に米国のパワーが小さくなるのは避けられない。一方で、草の根保守のティーパーティーに見られるように、国内政治は内向き志向を強めている。
こういう時だけに、大きな枠組みで日米関係を考えていく努力を、お互いにすべきだ。そのためには、普天間問題を根本的に見直し、辺野古以外の案を模索するしかない。
遠回りに見えても、それ以外に実質的に日米関係を強化する道を開く手立てはない。