政府の食と農林漁業の再生推進本部が基本方針・行動計画を決定した。海外の安い農産品を迎え撃つには農家の経営効率化が避けて通れない。大規模農家への支援を手厚くする制度設計が不可欠だ。
環太平洋連携協定(TPP)の交渉入りを視野に入れる野田佳彦首相が「経済連携と農業再生を両立させなければならない」と語った。首相は「賛成、反対の二項対立は不毛」との持論を繰り返している。だが、農協が一千万人のTPP反対署名を集め、民主党内でも反対派の山田正彦前農相が離党をほのめかすなど交渉入りの展望は開けていない。
二〇一〇年の農家総数は二百五十二万戸、五年前より11%も減った。主に農業で働く人も8%減の二百五万人。平均年齢六六・一歳と、じり貧が止まらない。
基本方針は一六年度までの五年間を行動計画期間とし、平地の平均耕作面積を現在の十倍以上、二十〜三十ヘクタールに拡大し新規就農を支援するなどを柱に据えた。就農支援は四十五歳未満で新たに農業に就く人に年百五十万円を最長七年間支給する制度で、後継者育成の呼び水として期待したい。
しかし「直接支払い」の改革は腰が据わっているとは言い難い。
戸別所得補償制度がその代表格だ。販売価格が生産費を下回る農産品について差額を農家に直接支払う仕組みだが、農家の経営規模の大小や、専業・兼業を問わず一律に支払われるので、零細農家は農地を簡単に手放さない。貸していた農地の返還を求める事例も相次ぎ、規模拡大を妨げている。
それでも離農者などの農地貸し出しは全農地の実に三分の一近い百六万ヘクタールに広がり、その半分以上が大規模農家に集まっている。
その成果も表れたのだろう。規模のメリットが生産費を抑え、かつて七〜八倍あった外国産米との価格差が中国産米との対比では一・四倍程度にまで縮まった。経営規模が大きいほど支払額を多くし、輸出を後押しする品質向上をも促す制度が求められている。
現状の戸別所得補償は政権交代の原動力であり、見直しは与党内で慎重論が強い。ウルグアイ・ラウンド(多角的貿易交渉)で合意したコメ市場開放では、農家の集会所と称して温泉施設を建てるなど、税金六兆円の対策費が体質強化とはおおよそ無縁のばらまきに終わった。
これを教訓に自由貿易推進、農業再生を手元に引き寄せないと首相のいう両立は危うくなる。
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