大阪府の橋下徹知事が月末で辞職し大阪市長選にくら替え出馬する。「大阪都」の実現に向け府知事とのダブル選を仕掛けた。自治のかたちを問う大きな争点を、分かりやすく論じ合ってほしい。
橋下氏が提唱する大阪都構想は大阪府と政令指定都市の大阪市、堺市を「都」に再編、道路や鉄道、水道事業など広域行政を一本化する。両市は人口三十万人規模の「特別区」に分け住民サービスを担う基礎自治体とし、東京二十三区のように公選の区長と区議会を置く。
確かに大都市制度は曲がり角に来ている。景気低迷による財政難が続き、基礎自治体を担いながら広域機能を果たす余裕がなくなっている。人口七十万人以上に緩和された政令市は来年の熊本市で二十市にもなり、地方制度調査会が制度見直しの検討を始めた。
「府と市の在り方を変えないと大阪の未来はない」という橋下氏の思いは分からぬではないが、知事職をなげうってまで市長を目指すとは前代未聞だ。名古屋市の河村たかし市長が主導した市議会解散を問う住民投票と愛知県知事、市長の“トリプル選”同様に、強引な手法といえる。
けんかを売られた形の平松邦夫大阪市長は「絶対に大阪市を、市民をバラバラにはさせない」と受けて立つ。道府県からすべての事務と税財源を移譲して独立する「特別自治市」を念頭に、府と政令市の広域連合を唱えている。こちらも二重行政の解消が目的だ。
都か特別市か。双方にメリットとデメリットはあろう。枠組みや制度論にとどまらず、住民生活がどう変わるのかを説明し合ってもらいたい。現制度維持の立場の他候補者も合わせ、論戦が高まるほど自治は鍛えられるはずだ。
有権者の関心はいや応なく高まる。どうすれば暮らしやすくなるのか、大阪はよみがえるのか、を真剣に考えてほしい。大阪府民・市民でなくても、新しい自治、ひいては国の統治機構の在り方を考えるいい機会にしたい。
もっとも、橋下氏が自らの後継知事とともに市長に当選しても大阪都がすぐに進むわけではない。市議会多数派を懸け解散リコールを仕掛ける可能性もあり、権力闘争は続く。さらに都も特別市も、実現には法改正が必要となり、まだまだハードルは高く、生みの苦しみが続くだろう。
全国注視のダブル選を機に、地方分権の進展へ向け地制調の議論が加速することも期待したい。
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