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皇帝ナポレオンの墓はパリにある。40年ほど前の小欄によれば、訪れる外国人はイギリス人が一番多かったそうだ。「宿敵ナポレオンが間違いなく死んだかどうか、心配なので確かめに来るんですな」。墓守が明快に説明してくれると、筆者は書いている▼死亡したリビアのカダフィ大佐は、DNA鑑定で本人と確かめ、埋葬されるという。影武者もいるとされた独裁者である。圧政の悪夢に、間違いなく死んだのか安心できない人はまだ多かろう。歴史のかなたの皇帝と違って、こちらはぐっと生々しい▼英雄伝と悪人伝は紙一重だという。カダフィ氏は王制を倒した英雄だった。だがアラブの大義を掲げて純粋に見えた理想も、いつしか権力欲にゆがんだ。民衆に憎まれる末路は、古来多くの英雄がたどった道である▼さらにカダフィ氏の殉教者的な陶酔は、白旗より徹底抗戦を選び、多くの犠牲を出した。国民に銃を向け続けた独裁者の、最後の言葉は「撃つな」だったと聞けば暗然となる▼この人の退場で、「英雄」がアラブを治めてきた時代は終わったという。思えば英雄は民主主義と相いれないし、民主主義には英雄はいらない。一つの死は、民衆の政治を求める「アラブの春」を象徴していよう▼「立ち上がることは勇気の三分の二である」という諺(ことわざ)がアラブにあるそうだ。原意は立ち上がって質問することらしいが「決起」にも通じよう。勇気をふるって立ち上がる民衆の怖さをご存じか。尋ねたい独裁者は他にもいる。