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天声人語

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2011年10月21日(金)付

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 世に多い教訓話(きょうくんばなし)の中で「蟻(あり)とキリギリス」は最も知られた一つだろう。触発されて書いた同名の短編が英の文豪モームにあって、こちらはまるで違う結末が用意されている▼まじめな兄と放蕩(ほうとう)な弟がいて、これが蟻とキリギリス。兄はこつこつ小金をため、弟は借金で遊び暮らす。ところが老境に入らんとするとき、すかんぴんの弟に莫大(ばくだい)な財産が転がり込む。「因果の掟(おきて)」を愉快にひっくり返した作だが、元の話を生んだギリシャには、こんな僥倖(ぎょうこう)は起こりそうにない▼今や巨大なキリギリスと化して欧州、いや世界を脅かす国が、緊迫した事態になっている。政府への抗議デモで火炎瓶が飛び、棒が振り回されている。首都アテネはマヒ状態という▼南欧のおおらかさは、国の金銭感覚のゆるさに通じていたようで、いつしか巨額の借金を作っていた。前政権は隠していたが、発覚して大騒ぎになる。「ユーロ一家」を身震いさせて今に至ったのは承知のとおりだ▼しまりを欠く弟に憤懣(ふんまん)やるかたない兄は、さしずめドイツか。強いマルクを手放して一蓮托生(いちれんたくしょう)の手をつないだ。それとも、つましく暮らすスロバキアなどの小国だろうか。「どの家族にも厄介者がいる」というモームの一節を、苦くかみしめているかも知れない▼グローバル化の時代、ギリシャが破綻(はたん)すれば影響はたちまち日本に及ぼう。借金ざんまいも相通じるから、危機は近火(きんか)であり、他山の石と心得たい。濡(ぬ)れ手で粟(あわ)の僥倖を頼めるのは、作り話の中限りである。

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