野田内閣は沖縄県名護市辺野古に新たな米軍基地を造るための環境影響評価の評価書を、年内に県に提出する。実現困難な計画をなぜ強引に進めるのか。地元に責任を転嫁する布石ではないのか。
評価書の年内提出方針は、沖縄県を訪れた一川保夫防衛相が仲井真弘多県知事との会談で伝えた。
評価書提出は、日米両政府が返還合意した米軍普天間飛行場の代替施設として辺野古沿岸部を埋め立ててV字形滑走路を建設するために必要な手続きの一環。知事は提出から九十日以内に意見書を返送し、政府はその後、知事に沿岸部の埋め立てを申請する。
しかし、海面埋め立ての許可権を持つ仲井真知事は、基地負担の軽減にならない普天間飛行場の県内移設に反対し、国外・県外への移設を求めている。
知事が許可を出さない以上、埋め立てはできず、代替施設を造ることはできない。にもかかわらず野田内閣はなぜ「見切り発車」で手続きを進めようとするのか。
そのヒントは先に行われた野田佳彦首相とオバマ米大統領との日米首脳会談にある。同席したキャンベル国務次官補の説明では、大統領は「結果を求める時期が近づいている」との表現で、県内移設合意の早期履行を求めたという。
首相は国会答弁で、大統領からそのような発言はなかったとしているが、閣僚らの頻繁な「沖縄詣で」や評価書の年内提出方針など会談後の動きを見ると、米側の意向に沿って手続きを強引に進めようとしているのは否定しがたい。
首相にとっては、実際に移設が実現しなくても、事態の進展に努力する姿勢を米側に示せればいいのかもしれない。
県知事が海面埋め立てを拒み、普天間返還が実現しなかったら、その責めは沖縄県側にあると言い逃れできるからだ。
これでは何の問題解決にもならない。普天間返還の出発点は、周辺住民の危険性を取り除くこと、在日米軍基地の約74%が集中する沖縄の過重な基地負担を軽くすること、にある。地元の強い反対で実現がもはや困難な辺野古移設にこだわり、普天間返還をこれ以上遅らせるべきではない。
日米両首脳は、辺野古移設が直面する困難な状況を率直に認め合い、新たな解決策を探り始めてはどうか。その際、できもしないことを、あたかもできるよう相手国に伝える「空手形」外交を終わりにするのは当然である。
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