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ふだんが寝不足ぎみの人には「冬眠」のかもすイメージは憧れだろう。その「冬眠」を題名にした、極めて寡黙な一作が詩人の草野心平にある。なにしろ本文の言葉はなく、題のあとには〈●〉、つまり黒丸が一つあるだけだ▼それが詩?と思う向きもあろうが、タイトルと黒丸が絶妙に響きあう味わいは深い。心平さんは「蛙(かえる)の詩人」で知られる。●は丸く眠る蛙の姿か、それとも穴の暗闇だろうか。これが熊ならもっと巨大な●が似つかわしい。などと勝手な想像をめぐらせてみる▼しかし熊は蛙と違い、冬眠の前に人里を騒がせることが多い。この秋は本州のツキノワグマがおとなしいと思ったら、北海道でヒグマが出没している。札幌でも相次ぎ、人は神経を尖(とが)らせる▼色々な理由が考えられるそうだ。去年はドングリが豊作だった。たっぷり栄養分を蓄えた母グマは翌春の出生率が高くなる。だが今年は一転して不作で、子熊が腹をすかせている。そんな「推理」もあるように聞く▼テディベアにせよ、プーさんにせよ、メルヘンでは愛される癒やし系である。とはいえ現実の生き物に、夢の中にだけいてくれとは頼めない。互いに顔を合わさないで暮らす。それだけのことが、毎年かくも難しい▼ものの本によれば、かのダーウィンが、熊はいずれ水生動物に進化すると推測したことがあったそうだ。そうなれば遭遇は無くなろうが、覚束(おぼつか)ない話である。ここは万物の霊長たる知恵で、物言わぬ森の王者との共存を探りたい。