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膠着(こうちゃく)状態が続く沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題で、野田政権が動いた。名護市辺野古沖を埋め立てて新滑走路をつくるための環境影響評価(アセスメント)の最終手[記事全文]
情報公開という世の中の大きな流れを妨げることにならなければいいが……。そんな懸念を抱かせる判決があった。温暖化問題に取り組むNPOが、企業から政府に提出された工場別・燃[記事全文]
膠着(こうちゃく)状態が続く沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題で、野田政権が動いた。
名護市辺野古沖を埋め立てて新滑走路をつくるための環境影響評価(アセスメント)の最終手続きに入る方針を決め、沖縄を訪れた一川保夫防衛相が仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事に伝えたのだ。
野田政権にすれば、日米合意の実現に向けた一歩という位置づけだろうが、事態を打開する糸口にはならない。むしろ混迷を深めてしまう「見切り発車」というしかない。
「最低でも県外」という公約を守れなかった民主党政権と沖縄との信頼関係は傷ついたままだ。辺野古案に反対し、県外への移設を求める沖縄側の姿勢は変わっていない。
それなのに、政府は来年前半にアセスの手続きを終えて、6月にも知事に埋め立て許可を申請する日程を描く。知事がかつては、条件つき容認論だったため、振興策なども絡めて説得すれば折れてくれるという期待感もあるようだ。
しかし、これは甘すぎる。地元の名護市に反対派の市長が生まれ、いまや県議会も一致して県外・国外移設を求めている。知事がゴーサインを出せる政治環境にないことは明らかだ。
成算もなく、アリバイづくりのように手続きを進めるべきではない。私たちはこう訴えてきたが、政府はまたも展望なき一手を打った。
一方で、私たちは野田政権の苦しい立場もわかる。米国から「目に見える進展」を求められている。来週には、パネッタ国防長官が来日するし、来月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)では日米首脳会談も予定される。
その前に、日本政府として努力を形にしておこう。そう考えて、関係閣僚が相次いで沖縄に足を運んでいるのだろう。
しかし、めざす方向性が違っていないか。
すでに辺野古への移設は事実上、無理だ。それでも、手続きを踏んでいくやり方は、沖縄県民だけでなく、米国政府に対しても不誠実だ。
来年、沖縄では県議選、米国では大統領選がある。政治的にも慎重な運びが求められる。
ここは、厳しい現実を率直に米国に伝え、日米が協調して、仕切り直すしかあるまい。
それは絶対に普天間を固定化させず、辺野古への移設でもない、「第三の道」を探るということだ。
一基地の問題が、日米関係を揺るがせた鳩山政権時代の愚を繰り返してはならない。
情報公開という世の中の大きな流れを妨げることにならなければいいが……。そんな懸念を抱かせる判決があった。
温暖化問題に取り組むNPOが、企業から政府に提出された工場別・燃料別のエネルギー使用量の開示を求めた裁判で、最高裁は請求を退けた。裁判は各地で起こされ、地裁と高裁で六つの判決が出ているが、五つが開示を命じていた。それだけに原告らの失望は大きい。
温暖化対策推進法は「企業が求めれば、工場ごとの細かな数値までは公開しなくてよい」と定めている。最高裁はこの規定を重く見て、公開すると製品コストや省エネ技術が外部に分かってしまい、企業が不利な立場に立たされるおそれが極めて高い情報だと結論づけた。
制度の整合性を考えれば、そういう判断になるのかもしれない。だがどうも釈然としない。
このデータは全国の工場の9割以上が開示に異を唱えていないし、例えば製品コストには人件費や為替変動など様々な要素が絡んでくる。よその者に正確なコスト計算ができる可能性はどれほどあるのだろう。
最高裁が破棄した名古屋高裁判決は「開示するかどうか、企業の意向で決まることになりかねず、『行政がもつ情報は原則開示。不開示は例外』とする情報公開法の趣旨が損なわれる」と述べている。この判断の方がすとんと胸に落ちる。
たしかに政府が企業から集めた情報の取り扱いは難しい。公にすると競争力をそいでしまうものも少なくないし、うそのない報告をさせるためにも慎重な対応が求められる。
一方で、企業の立場に寄り添いすぎると、大切な情報が国民に隠され、重大な結果に至ることがある。その事実を私たちは原発事故で思い知らされた。
最高裁判決が独り歩きして、企業情報であることを理由に政府が開示に後ろ向きにならぬよう、目を光らせる必要がある。同時に、今回明らかになったような情報公開を尻抜けにしてしまう規定が、個別の法律や政省令にもぐりこんでいないか、専門家の力を借りながら点検していくことも大切だろう。
国会提出済みの情報公開法の改正案には、「公にしない約束で企業から任意提供された情報は開示しない」という現行条文の削除が盛り込まれている。背景にあるのは、企業の意思ではなく、情報の性質と内容、そして国民の生命・健康・生活に及ぼす影響を見極めて、開示、非開示を決めようという考えだ。この姿勢を貫いていきたい。