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どうしてここまで世間の常識とかけはなれたことができるのか。多くの国民が、あぜんとしているに違いない。佐賀県玄海町の玄海原発の再稼働をめぐる「やらせメール」問題で、九州電[記事全文]
一つの区切りが見えてきた。福島第一原発の事故処理で、事故炉の冷温停止を年内に達成する、という目標を政府と東京電力が改訂版の工程表にはっきりと書いた。細野原発相や野田首相[記事全文]
どうしてここまで世間の常識とかけはなれたことができるのか。多くの国民が、あぜんとしているに違いない。
佐賀県玄海町の玄海原発の再稼働をめぐる「やらせメール」問題で、九州電力が経済産業省に最終報告書を提出した。
ところが、九電が調査を委託した第三者委員会が問題の核心として指摘した古川康佐賀県知事の関与には一切触れず、真相究明の姿勢がまったく感じられない。枝野経産相が「理解不能」と怒ったのも当然だ。
問題となったのは6月26日の県民向け番組。第三者委はその5日前に九電幹部と懇談した古川知事が「再開容認の立場からもネットを通じて意見を出して欲しい」と発言したことが「やらせ」の発端と認定した。
九電の報告書はこれを黙殺したばかりでなく、玄海原発のプルサーマル計画をめぐる05年の佐賀県主催の討論会で、九電が仕込んだ「やらせ質問」への県側の関与も言及していない。
いったい何のための第三者委員会だったのか。
しかも、7月にいったん辞表を提出した真部利応(まなべ・としお)社長は「個人的な考えだけで辞めることはできかねる」という不可解な理由で、05年の討論会開催時に社長だった松尾新吾会長とともに続投するのだという。
第三者委の委員長を務めた元検事の郷原信郎弁護士は「経営体制を維持しようとする経営者の暴走」と批判する。
電力会社の場合、不祥事や問題が起きても、一般市民には他の企業を選ぶことができない。こうした地域独占にあぐらをかいてきた電力会社の体質が、企業統治の機能不全を招いたのではないか。
それにしても、古川知事に批判の矛先が向かないよう、ここまで気を使うのは異常だ。
第三者委の報告書は、玄海原発で全国初のプルサーマル導入をめぐって、九電にとって古川氏は「まさに『希望の灯』とも言えるものだったはずである」と指摘している。
九電が原発の再稼働のためには、真相究明や住民への地道な説明よりも、知事の政治力が優先されると考えたとしたら、本末転倒も甚だしい。
外部からの批判に耳を傾け、独善的な体質を改める。それが電力業界にとって福島第一原発事故の大きな教訓であり、再発防止への原点だったはずだ。
九電は、批判を受けて報告書を再提出するという。しかし、電力業界の経営のあり方を抜本的に見直さない限り、安定的な電力供給もおぼつかない。
一つの区切りが見えてきた。福島第一原発の事故処理で、事故炉の冷温停止を年内に達成する、という目標を政府と東京電力が改訂版の工程表にはっきりと書いた。
細野原発相や野田首相が9月に、国際社会に向けて「全力を挙げる」と明言した期限にあわせたものだ。それまでメドとしてきた「遅くとも来年1月中旬」を前倒ししている。
冷温停止とはどんなことか。
原子炉の核燃料は、たき火とは違って、水をかければすぐ冷えるものではない。炉がとまっても放射性元素の崩壊は続き、熱はずっと出る。この熱で水温が高まれば、蒸気が発生して大量の放射性物質が再び外に吐き出される恐れがある。
そこで今回、政府と東電は「圧力容器底部の温度が100度」を冷温停止の目安と定め、それを下回る状態に落ち着かせることを急いできた。くわえて、今後の放射能の放出による一般人の被曝(ひばく)を大幅に抑えることも条件にした。
被害を広げないためにも、原発周辺の人々が本来の生活を取り戻していくためにも、放射能の大量放出を繰り返してはならない。この半年余、政府や東電が炉への注水や水の循環に力を入れた理由もそこにある。
事故収束への歩みを地下階段にたとえれば、ようやく地上の明るみが目に入ったということだろう。そこには、高線量の敷地内で猛暑の中でも防護服を着て働いてきた作業員の奮闘があったことを忘れてはなるまい。
だが、油断は禁物だ。
3・11以前、冷温停止は、原発がヒヤリとしたときに炉を「止める」「冷やす」「閉じ込める」ことで実現する安定した状態を指すことが多かった。
ところが今回、炉の状態は普通ではない。燃料が溶け落ちていたり、圧力容器の一部が壊れたりしているとみられている。炉の状態も平時のようにきちんとは把握できない。壊れかけた炉に、むき出しになった燃料が存在していると思われる異常事態は当分の間続くだろう。
東日本で続く余震も気がかりだ。もし激しい揺れに襲われた場合、炉内の燃料などがどんな影響を受けるかも心配だ。
冷温停止が確実かどうかは慎重に見極めなくてはならない。さらに万一、放射能大量放出の兆候が見えたときの態勢が十分かどうかも吟味する必要がある。これらの判断には、外部の専門家を交えるべきだろう。
政府が「冷温停止」を宣言するまでには、まだ、乗り越えなくてはならない山がある。