HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 16 Oct 2011 22:21:37 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 武器緩和の行き着く先:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 武器緩和の行き着く先

 自衛隊の海外派遣をめぐり、民主党の前原誠司政調会長が武器使用基準の緩和を主張しています。武器使用の改定が必要なのか、考えてみます。

 八月に来日した国連の潘基文(バンキムン)事務総長は菅直人首相に、アフリカの南スーダン国連平和維持活動(PKO)への施設部隊(工兵)派遣を要請しました。南スーダンは二十年以上に及ぶ内戦の末、七月に独立したばかりです。日本政府は東日本大震災への対応やハイチPKOに施設部隊を派遣中であることを挙げ、司令部要員の派遣にとどめる考えを伝えました。

◆南スーダンPKOを調査

 菅氏と交代した野田佳彦首相は積極的です。施設部隊派遣の是非を見極めるための二回目の調査団を現在、派遣しています。治安が安定し、輸送・補給にも問題ないとなれば、部隊派遣に踏み切る公算が大きいとみられています。

 前原氏が武器使用基準の見直しを主張したのは、潘事務総長の派遣要請を受けた後でした。九月上旬、米ワシントンでの講演で、PKOなど自衛隊の海外派遣で、一緒に活動する他国部隊が攻撃された際に反撃できるよう武器使用を緩和すべきだと述べたのです。

 武器使用基準は、それほど不備なのでしょうか。政府はPKO参加五原則の中で「武器使用は要員防護のために必要な最小限のもの」と明記しています。

 武力行使を禁じた憲法九条のもとで自衛隊を海外派遣するには、抑制的に行動する必要があるからです。

 一九九二年、初めてPKOに参加した自衛隊はカンボジアへ派遣されました。国際平和協力法で隊員が発砲できるのは「自己または自己とともにある隊員を守る」場合に限定され、隊員個人が判断するとされました。

◆緩和された武器使用基準

 二十年後のいま、基準は大幅に緩和されています。隊員からの不満の声を受けて、九八年には「武器使用の適正を確保するため、上官の命令によらなければならない」と改定され、二〇〇一年に再改定されて「自己の管理下に入った者を守る」ための武器使用まで許されることになりました。

 自己の管理下に入った者ならば、他国の兵士まで守れるのです。同時に武器を防護するための武器使用も認められました。防護する武器は小銃や機関銃にとどまらず、生存に不可欠ならばトラックなどの物品まで含みます。

 「撃てっ」。上官の命令で一斉に発砲する部隊の姿は、限りなく普通の軍隊に近いものです。封印してきた武力行使の可能性は高まったといえるかもしれません。

 歯止めは、PKO参加五原則に含まれる「停戦の合意」と「派遣の同意」でしょう。紛争当事者が自衛隊の派遣を了承し、派遣期間を通じて停戦が維持される見通しがなければ、PKO参加は認められません。紛争が再燃して停戦合意が崩れる場面では、自衛隊は撤収するほかありません。

 急襲された場合は、防衛省訓令に従い、「口頭による警告」「威嚇射撃」「(相手を傷つける)危害射撃」と手順を踏むことが決められています。「自己や自己の管理下にある者を守る」ためであることはいうまでもありません。

 前原氏が例示したような「攻撃された他国部隊」を守るのは、その軍隊自身と治安維持を担当する国連平和維持軍(PKF)の役割です。

 PKOには参加国ごとに決められた役割があります。押っ取り刀で駆けつけた方がよいという単純な話ではないのです。

 国会で南スーダンへの自衛隊派遣を問われた野田首相は「いまの法の枠内の武器使用で可能かどうかという観点から考えている」と語り、武器使用基準を見直すことに慎重な考えを示しました。ただ、武器使用の緩和に言及したのは、前原氏が最初ではありません。政府の「PKOの在り方に関する懇談会」は今年七月に発表した中間とりまとめで「検討すべき課題」としてPKO参加五原則や参加すべき分野、武器使用基準の見直しを挙げています。

 「停戦の合意」や「派遣の同意」がない紛争国への派遣や武器使用の危険性が格段に高まるPKFへの参加、武器使用のさらなる緩和を検討するというのです。

◆待ち受ける憲法改定

 日本は過去二十八回、PKO、国際緊急援助隊などの海外活動に自衛官四万人を派遣しました。海賊対処を除けば施設、輸送、医療といった後方支援にあたり、高い技術力と規律ある行動が国連や受け入れ国から高く評価されました。

 実績を棚上げして、憲法や現行の憲法解釈では派遣困難な分野に自衛隊を送り込み、危険だからと武器使用の緩和を主張する。その主張の先に憲法改定が待ち受けていると疑わざるを得ないのです。

 

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