あの名画『カサブランカ』は撮影中、ひどく頻繁に脚本が書き直されていたらしい▼イルザを演じたイングリッド・バーグマンの回想録で読んだ覚えがある。自分の役が本当は、昔の恋人(ハンフリー・ボガート)と、夫のどちらを愛しているかさえ分からず、監督に聞くと、答えは「まだ分からない。どっちつかずでやってくれ」。あの有名なエンディングも実は決まっておらず、二通りの撮影が予定されていたという▼さて、東京電力が、山と積まれた放射線防護服の写真を公開した。福島第一原発事故で、のべ約四十八万人の作業員が着用したものという。無論、放射能汚染されているが、処分法は未定で、同社は「当面はこのまま保管する」とする▼またか、と思う。汚染されたがれき、土なども処分法は決まっておらず、そのまま放置か、せいぜいが仮置き…。あの事故のもたらした多くは、いわば“エンディング未定”の状態にある▼大体、原発というシステム自体がそうなのだ。事故でなく、普通に運転するだけで危険極まりない廃棄物を排出するのに、その最終的な処分法は定まっていない。一時保管が限界に近づく原発もあるが、今も増え続けている▼エンディングが見えないままことを進めても、映画なら時には傑作も生まれよう。だが、これは、映画ではない。人が実際に生き死にする現実の話である。