これは歌人今野寿美(すみ)さんの一首である。<放射線反応ゆゆしき指の痕のこせるノートが掲げられゐる>▼今なお、放射線が検出されるという指紋をノートに残した人は、誰あろう、あのキュリー夫人、マリー・キュリー。松村由利子著『31文字のなかの科学』から孫引きさせてもらった。歌人が、ソルボンヌ大にあるキュリー研究所を訪れた時の作という▼夫とともにまずノーベル物理学賞、単独で化学賞も受けたマリーの功績の大きな一つが、がん治療などにも利用されてきたラジウムの発見、分離。だが、当時、放射線の危険性はまだ認識されておらず、実験など、恐ろしく無造作に行われていたという。彼女は結局、白血病で亡くなっている▼そのラジウムの瓶詰が原因だったとは意想外だ。東京・世田谷の住宅街で、突然、高い放射線量が計測されたとのニュースを聞いた時、まず思い浮かんだのがホットスポットという言葉▼福島第一原発事故の影響と疑わず、これは、遠隔地でも突然高い線量を示す地域が今後も続々出てくるのかと、怖気(おぞけ)をふるった。結局は、経緯不明ながら、近くの民家敷地に以前から埋められていた夜光塗料の原料用らしきラジウムが線源と分かった▼それにしても、気になるのは、この異常をみつけたのが市民団体の計測だったという点だ。行政による調査は行き届いているのだろうか。