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10月14日付 編集手帳

 越後では昔、稲の実が熟することを「ぼなる」と言い表したらしい。漢字をあてれば「吼なる」、()えることを意味する方言という。越後の人、良寛の逸話集『良寛禅師奇話』という江戸期の書物に「ぼなる」が出てくる◆〈師(良寛)…稲ノ吼ユルヲ聞カントテ、終夜、田間ニ彷徨(ほうこう)セラレシト〉。稲の吼える声が聞きたくて、ひと晩じゅう田んぼをさまよい歩いたというのだから、良寛さんは童心のみならず、探求心も相当なものである◆もしかすると吼えるのは稲ではなく、耕作者自身かも知れない。丹精こめた稲の実りに上げる胸中の歓声と考えるとき、「ぼなる」はいっそう味わい深い◆原発事故の影響で収穫の歓声を上げられずにいた農家も、これで愁眉をひらくことになるか。放射性物質の検査で福島産米すべての安全が確認され、新米の出荷が可能になった。ひとつ心配なのは、科学的根拠もなしに福島産というだけで食卓から遠ざける心ない風評被害である◆〈新米の其一粒(そのひとつぶ)の光かな〉(高浜虚子)。何ひとつ罪のない、何の傷もない福島生まれの光の粒たちが、悲しみに吼える声を聞きたくはない。

2011年10月14日01時24分  読売新聞)

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