環太平洋連携協定(TPP)の交渉参加をめぐる本格論議が始まった。参加は「親米経済圏」入りを意味するが、台頭する中国からも目をそらすべきでない。交渉には複眼的な通商戦略が不可欠だ。
一刻も早い交渉入りを求める経済産業省、「農業が壊滅する」と消極的な農林水産省。貿易交渉のたびに演じられるお決まりの対立劇だ。野田佳彦首相は収拾を念頭に「農業と経済連携の両立を図りたい」と語った。
十一月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)での参加表明を目指すなら「食と農林漁業の再生実現会議」の中間報告の柱である農業経営の大規模化など、首相のいう両立策を大胆に描くべきだ。
農業再生の実現性が見えてくれば、攻めの交渉がしやすくなる。
現在、TPPはチリなど二〇〇六年の発効時の四カ国に米国や豪州などが加わり、九カ国で拡大交渉が進められている。例外なき関税の撤廃が原則だが、その掛け声をよそに米国は自国農民の反発を恐れ、豪州などから輸入する砂糖や乳製品を関税撤廃の例外にするよう弱みをさらけ出している。
それが貿易交渉の現実だ。日本のコメも例外要求は可能であり、交渉の際の選択肢になり得る。
併せて、交渉を主導する米国の戦略を見据えねばならない。アジア各国の貿易量は一九九〇年以降、約三倍にも急増した。米国はそのアジアに照準を合わせ、TPPを橋頭堡(ほ)に二十一の国・地域で構成するAPECと合流し、中国も加わる壮大なアジア太平洋貿易圏構想を視野に入れている。
オバマ大統領が打ち出した、今後五年間で輸出を倍増し二百万人の雇用を創出する戦略の向かう先であり、リーマン・ショックを境に低迷する経済の復活が狙いだ。
しかし、日本のTPP参加は日米同盟の強化に資するだろうが、通商政策も米国の後追いでいいのか。米国と自由貿易協定(FTA)締結で合意した韓国は独自に中国との接近を試みている。今や中国は日本最大の貿易相手国であり、見過ごせる存在ではない。その中国とは五月の日中韓首脳会談で三カ国間のFTA予備交渉を加速させることで合意した。
日中韓協定を結べば、存在感を強める中国に模倣品撲滅はじめ、知的財産権などの規約順守を促すこともできる。米国の狙いにも合致し、日米関係の強化につながるだろう。TPP交渉入りの論議は、なきに等しい日本のFTA戦略を再構築する好機でもある。
この記事を印刷する