東欧のスロバキア議会が、ユーロ危機に対応する欧州金融安定化基金(EFSF)拡充策を否決した。再採決で可決される可能性はあるとはいえ、あらためて統合の原点を見据える時ではないか。
スロバキアは、人口五百四十万の新興国だ。一九八九年、共産政権を倒した「ビロード革命」後、チェコとの連邦を離脱、自動車産業を中心に経済成長を遂げ、二〇〇四年に欧州連合(EU)に加盟した。一昨年、ユーロに加盟した際に見られた祝賀ムードには、チェコに先んじた誇りも加わっていただろう。
その議会が否決したのは、ギリシャなどの財政危機に対応して昨年設立されたEFSFの拡充策だ。四千四百億ユーロ(約四十五兆円)の融資枠や支援策の幅を広げ、今後財政破綻が懸念される他の諸国も視野に入れた枠組みを確保する狙いだ。
異議申し立てはスロバキアに限らない。拡充案を受け入れる代わりに二国間担保を要求したフィンランド。他国の救済は違憲、との違憲訴訟を凌(しの)いだドイツ。緊縮財政案への抗議がうずまく中、採択したスペイン。各国の実情は「欧州の多様性」そのままだ。
仮にスロバキア議会の再議決で可決され、拡充案が成立しても、根本的な解決になるとは限らない。対策を小出しにするEUに対して、市場の反応は一貫して冷ややかだ。
問われているのは、統合への政治的意思ではないか。欧州統合は、未曽有の金融危機と過剰なナショナリズムへの対応を誤った過去二度の大戦という負の歴史への反省から出発した政治的な実験だった筈(はず)だ。「政治統合なき通貨統合は機能しない」。ユーロ発足当時から指摘され、グローバル化の中で強まる批判に応えるには、統合を促進する果断な政治判断が欠かせない。
ユーロ導入時、ワイツゼッカー元独大統領は本紙に「多様な欧州が平和的な結合を達成していくこと。それこそが二十一世紀の欧州最大の貢献だ」と語っている。過去への眼差(まなざ)しの大切さを説く元大統領の言葉は今も通じる。
一加盟国の意思がEU全体の流れを左右したことは、過去にも例がある。マーストリヒト条約、リスボン条約の批准過程では、拒否国が出るたびに例外規定を設け、条約を修正しながら、統合を進めてきた。今回の試練もその危機をバネとして生かしてこそ欧州の知恵といえるのではないか。
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