日本語ではカーカー、英語ではコーコー。さて、なんでしょう? カラスの鳴き声である▼フランスの作家ルナールの有名な『博物誌』のカラスの項には、こんな小文がある。手元の岩波文庫版(辻昶訳)だと<「なんだ(コワ)? なんだ(コワ)? なんだ(コワ)?」「なんでもないよ」>。「なんだ?」を意味するQuoiの音とカラスの鳴き声を掛けたものらしい▼さて、この鳥、その体色ゆえか、また貪欲にゴミを漁(あさ)る印象ゆえか、つくづく人気がない。だが、実にあなどれない種族だ。思い出すのは昔々、取材で、東海道新幹線の先頭部分に乗っていた時のこと▼走行中、バシッと音がして、一瞬、前面ガラスに褐色の液体が広がった。運転士が「スズメです」と教えてくれた。しばらくして、今度は、はるかに大きなドンという音と衝撃。運転士を見やると「ハトです」。線路上、一番目につくのは、カラスだったが、運転士は「やつらはまずぶつからない」と感心したように話したものだ▼ほかにも、その賢さを示す類話は多いが、それでも、宇都宮大の杉田昭栄教授らによる研究結果には、それこそ<なんだ?>と驚いた。餌を使った実験で、カラスが数の大小を認識できることを世界で初めて解明したのだという▼大したものだと思って、街のカラスを眺める。連中、不敵に笑い、こう嘯(うそぶ)いている気がした。<なんでもないよ>