風を切る、その風が、心地よい。今は一年で一番、自転車でどこかへ出掛けてみたいと思う時候である▼だが、歩行者の立場になってみると、いささか怖い存在だ。朝夕など特に、歩道を相当なスピードで走り抜けていく人が少なくない。さらに、このごろは、おっかないものが流行(はや)っている。ピストと呼ばれる競技用自転車だ。それにはブレーキがない▼後輪と連動したペダルの回転を遅くすることで減速するが、急には止まれない仕組みらしい。販売店が、道交法に則してブレーキを付けて売っても「不格好だ」と外してしまう人が多いとか。警察も最近、摘発に注力している▼使う人が、止めようと思えば止められる。人の動かすもの、なべてそうでなくては剣呑(けんのん)だが、やはり連想は原発へと飛ぶ。洗濯機や扇風機なら、例えば異音でもして危ないと思えば、スイッチか電源を切れば止まる。だが、あれは違う▼福島の事故では、止めようと思っても止められず制御不能に。「暴走」が続き、延々と放射能がまき散らかされた。いわば、いざという時、動きを止めるブレーキやスイッチがないのだから、怖い▼脱原発に傾く世論に対し、何とかして原発を止めさせまいとするパワーも強力だ。だが、原発推進政策自体だって同じ。国民が止めようと思っても止められないとすれば、それも、負けずに怖いことではないか。