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楽屋話めいて恐縮だが、書くテーマに悩むときは「その日の歴史」を調べてみたりする。本日は、華岡青洲が通仙散という生薬で全身麻酔に成功し、外科手術を行った日とある。207年前、世界に先駆けての業績であったという▼その「麻酔」と、「世界に先駆けて」で、iPS細胞の山中伸弥・京大教授に連想が飛んだ。現代医療を根っこから変えうる万能細胞を世界に先駆けて作り出した。ノーベル賞の呼び声が高いのは、せんだっての報道でご存じの通りだ▼「麻酔」の話も山中さんにある。20代のころは腕の悪い整形外科医だったという。普通は10分ほどの手術に1、2時間も要したらしいから、ご謙遜ではあるまい。友人の手術をした時、途中で麻酔が切れかけて「すまん」と謝ったのだそうだ▼そんな挫折をへて研究者に転じた山中さんの軌跡は、仏の文人ラ・ロシュフコーの「箴言(しんげん)」を呼びさます。この人間観察の達人は、神は自然の中に色々な木を植えたように、人の中にも色々な才を配した、と言う▼続けて〈だから世界一立派な梨の木も、ごくありふれた林檎(りんご)を実らせることはできないし、最も傑出した才能も、ほかのごくありふれた才能と同一の結果を産むことはできない〉(二宮フサ訳)▼そこで思う。われは本来何の木なりやと。凡庸な林檎さながらの小欄を顧みつつ、別の才もあらん、などと考えてみる。「本日の歴史」から、いつしか自分を励ます空想へ。時に思わぬ所へとコラムの結末は飛んでいく。