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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
震災後、ひどい略奪が起きない日本を世界は称賛したが、人影が消えた被災地は出店荒らしや空き巣にやられていた。どさくさこそ稼ぎ時とみるのは、こそ泥ばかりではない▼「人々が精神的なよりどころも物理的な居場所も失って、無防備な状態にあるそのときこそ、彼らにとっては世界改変の作業に着手するチャンスなのである」。近刊『ショック・ドクトリン』(ナオミ・クライン著、幾島幸子・村上由見子訳、岩波書店)の一節だ▼彼らとは、戦争や内乱、災害などの混乱に乗じ、改革と称してひともうけを企(たくら)む勢力を指す。筆者のカナダ人ジャーナリストは、イラク復興に群がるグローバル企業を取材して執筆を決めたという▼茫然(ぼうぜん)自失の人々をよそに、彼らは権力に取り入り、白紙に好きな絵を描く。惨事便乗の商売は途上国に限らない。財政難で強まる官から民へ、市場任せの風潮も好機らしい。俗耳になじんだ「小さな政府」への異議に、ざらりとした読後感が残った▼震災も「彼ら」には商機だろう。そこには生活と街と産業の再建にもがく住民がいて、予算がつけば総額十数兆円の復興計画が動き出す。東北3県は、スーツ姿の火事場泥棒にもご用心である▼「強欲の自由」は、各国で貧富の差を広げ、職なき若者の怒りは本家本元の米国にも広がった。自由競争の功は多々あれど、過ぎた市場信仰は社会に不安定の災いをもたらす。すでに深手を負った被災地ぐらい、部外者の金もうけとは無縁の場所でありたい。