米国が「テロとの戦い」を掲げてアフガニスタンに軍事介入してから七日で十年になった。だがイスラム武装勢力は巻き返し、テロを続ける。民生復興も進まず混迷は深まるばかりだ。
米中枢同時テロから一カ月足らずで、米国は報復としてアフガンに進攻した。当時のタリバン政権が同事件を主導した国際テロ組織アルカイダのウサマ・ビンラディン容疑者をかくまったためだ。
制圧作戦は短期間で終わり、カルザイ大統領を首班とする新政権が発足した。関係国は安定化政策に取り組んだ。
米軍および北大西洋条約機構(NATO)軍主体の治安部隊がタリバンを掃討した上で、段階的にアフガン政府に治安権限を移譲する。これと並行して、各国と国際機関が経済と民生復興を助けるという戦略だ。
確かに首都カブールなど都市部では、厳格なイスラム法を強要したタリバンの時代とは異なり、女性が社会に進出し、子どもの就学が増え識字率も上がった。
しかし政権を追われたタリバンは農村部と隣国パキスタンにも拠点を築き、「欧米の侵略者に対する聖戦だ」と主張して抗戦を続ける。カルザイ政権は汚職がはびこって支持を拡大できず、統治が及ぶのは一部の都市にとどまる。
米国は「国際テロ組織の壊滅」を掲げ、日本も含め多くの国々がアフガン進攻の正当性を認めた。しかし、十年が過ぎても戦いに終わりが見えない。アフガンの民族性や価値観を国際社会が読み誤ったと言うべきだろう。
先月には政府とタリバンの仲介役だったラバニ元大統領が自爆テロにより暗殺された。深刻な事態であり、対話による和平の道が見えなくなった。
カルザイ政権はパキスタンの三軍統合情報部(ISI)も犯行に関与していると非難し、インドに急接近して提携を強めると合意した。アフガンをめぐって、宿敵の印パ両国が「綱引き」を始めるほど緊張は高まっている。
日本政府はこれまでに米国に次ぐ三十億ドル余を投じ、警察官の給与や道路整備、学校建設などを支援してきたが、治安がこれほど悪化しては現地での人的貢献は難しい。
米国は国防費増大に苦しみ駐留軍を二〇一四年末までに撤退させる計画だが、撤退後に再び内戦になる可能性がある。多民族国家アフガンの危うさを再認識した対応を国際社会は迫られている。
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