民主党の小沢一郎元代表が刑事被告人として法廷に立った。新検察審査会制度に基づき、市民が「起訴議決」を突きつけた初の裁判でもある。巨額資金の真相を自ら真摯(しんし)に語る法廷にしてほしい。
「検察の捜査は私個人を標的にして社会的に抹殺するのが目的と思われ、明白な国家権力の乱用だ」と小沢元代表は無罪主張した。腹に据えかねたような検察批判を繰り返したのは、政治の師である故田中角栄元首相や故金丸信元自民党副総裁と同じ立場に置かれたことへの不満の表れだろうか。
むろん資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件で起訴したのは、検察官ではなく、検察官役の指定弁護士である。新しい制度では市民で構成する検察審が「起訴相当」と二回議決すると、「強制起訴」される仕組みだ。
起訴議決の中には「国民は裁判所によって本当に無罪なのか有罪なのかを判断してもらう権利がある」との一文があった。市民感覚は“疑惑”の白黒を裁判所の判断に委ねたことになる。
「推定無罪」の大原則が働くのは当然だが、小沢元代表は市民から突きつけられた疑問の一つ一つに誠実に答えねばならない。現職の国会議員ならば、政治的にもその要請が強まるはずである。
疑念の一つは、陸山会の土地取引の原資となった四億円の出所について、小沢元代表が明確に答えきれない点である。「政治資金」から「銀行融資」へ、さらに親の遺産を含む「個人資金」へと説明が二転三転した。真相は何なのか、この裁判で語ってほしい。
争点は政治資金収支報告書の虚偽記入事件で、有罪判決を受けた元秘書と共謀したかどうかに行き着く。元秘書は検察の捜査段階で、報告書の提出前に「(小沢元代表に)報告し、了承を得た」と供述している。その調書の採否がまず注目されよう。
検察審査会の市民は「元秘書が師と仰ぐ小沢元代表を罪に陥れる虚偽の供述をするのは考え難い」ととらえたが、元秘書は供述を翻している。指定弁護士が共謀を裏付ける間接証拠をどう積み上げるかが焦点となろう。
元秘書の裁判では、推定で事実を認定する「推認」を重ねて有罪に導いたことに専門家から批判が上がった。犯罪事実は合理的な疑いを差し挟む余地がない程度まで厳格に立証せねばならない。鉄則を“軟化”させることなく、裁判所は冷静に判断すべきだ。
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