米電子機器大手アップルの共同創業者で前最高経営責任者(CEO)だったスティーブ・ジョブズ氏(56)が死去した。使いやすい製品は暮らしを大きく変えた。異能の経営者の早い死を悼みたい。
ファイルを開くには、箱の形のアイコンをマウスで“ノック”する。捨てたいファイルはごみ箱の形をしたアイコンにポイッと捨てる。今は当たり前のアイデアだが、商品化したのはアップルだ。
多機能携帯電話「iPhone(アイフォーン)」は、画面に触るだけで動く。一般の人の感覚で操作できる簡易性と遊び心が製品の特徴になっている。
二十一歳のとき、友人たちと自宅のガレージでアップルを創業したジョブズ氏の大きな功績は、パソコンの家電化だろう。家庭に情報技術(IT)の恩恵を広める基礎をつくった。
アイフォーンに代表されるスマートフォンは、調査会社の矢野経済研究所によると、二〇一一年度の国内出荷台数は昨年度の約二・五倍、初めて携帯電話の過半数を占めると見込まれている。
情報端末を専門家から家庭へ、そして個人が持ち運べる存在にした。一方で、高齢者など持たない人との情報格差がさらに広がる現実も浮き彫りにした。
ジョブズ氏の真骨頂は「こういった製品が求められている」というアイデアだ。経営に携わったアニメーション制作会社ピクサーでは、デジタル技術を駆使して「トイ・ストーリー」など遊び心をそのまま作品にした。
ジョブズ氏の人物評は多彩だ。先見性があり完璧主義、強い探求心がある。一方、反逆的で周囲とよくぶつかったという。強い個性から経営方針をめぐり対立、アップルを解雇される目にも遭った。
エネルギッシュに突き進んできた生き方を見つめ直す機会を迎えたのは、膵臓(すいぞう)がんを患ってからだ。死を覚悟し手術を乗り越えた二〇〇五年、スタンフォード大で卒業生に向けたスピーチが有名だ。
「毎日を人生最後の日であるかのように生きれば、いつか必ずひとかどの人物になれる」と感銘を受けた言葉を紹介した。「自分の心と直感に従う勇気を持とう」と呼び掛けた。
心のままに生きた人生ではなかったか。アイフォーンで訃報を知ったユーザーは多いだろう。
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