HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 19912 Content-Type: text/html ETag: "488727-485d-179a2b80" Cache-Control: max-age=5 Expires: Wed, 05 Oct 2011 03:21:43 GMT Date: Wed, 05 Oct 2011 03:21:38 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
現在位置:
  1. asahi.com
  2. 天声人語

天声人語

Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2011年10月5日(水)付

印刷

 世に知られた文人の命日には色々と名がつく。たとえば芥川龍之介は河童(かっぱ)忌、正岡子規は糸瓜(へちま)忌。梶井基次郎は小説の題にちなんで「檸檬(れもん)忌」と呼ばれている。同じ名の「レモン忌」がもう一つある。高村智恵子の命日で、きょうがその日になる▼死の際(きわ)をうたった夫、高村光太郎の絶唱「レモン哀歌」は名高い。〈そんなにもあなたはレモンを待つてゐた/かなしく白くあかるい死の床で〉と始まり、〈写真の前に插(さ)した桜の花かげに/すずしく光るレモンを今日も置かう〉と結ばれる。一字一句を愛誦(あいしょう)している方もおられよう▼智恵子で思うのは福島の天地である。いまの二本松市で生まれた。〈あれが阿多多羅山(あたたらやま)/あの光るのが阿武隈川〉。あるいは〈阿多多羅山の山の上に/毎日出てゐる青い空が/智恵子のほんとの空だといふ〉。どれも光太郎の詩の一節だ▼死して73年、光太郎の詩集「智恵子抄」から70年、故郷福島は原発禍に苦しむ。観光もふるわない。智恵子記念館の3月から8月の来館者は、去年の1万6千人の約2割に減ったそうだ▼紅葉に染まって「山粧(よそお)う」季節だが、森林では放射能汚染の調査が続く。除去されて土に還(かえ)れぬ落ち葉もあるという。智恵子と光太郎は天上で何を思っていよう▼詩の中では、レモンの数滴が智恵子の意識をぱっと正常にする。例えは美しすぎるが、私たちもまた目を開いたのではないか。核はやはり命の営みとは相いれないと。「ほんとの空」を汚しては、人は生きていかれない。

PR情報