一昨年の春、プラハで「核兵器なき世界」を訴える歴史的な演説をした米オバマ大統領は、十一月に初めて来日する際、広島への訪問を模索していた▼被爆地では期待が高まり、米紙ニューヨーク・タイムズに被爆体験を寄せたデザイナーの三宅一生さんは、訪問を核廃絶に向けた「現実的で、シンボリックな第一歩になる」と訴えていた▼まさか、外務官僚が水面下で、横やりを入れていたとは想像もしなかっただろう。当時の藪中三十二外務次官が、ルース米大使に伝えたのは「時期尚早」。内部告発サイト、ウィキリークスが公開した米外交文書によって明らかになった▼米国内の反対論で訪問は見送られたかもしれないが、世界的に高まりつつあった核廃絶の機運に、被爆国の官僚が水を差すとは…。被爆地への裏切り行為を当時の鳩山由紀夫首相は把握していたのだろうか▼外務省への信頼は大きく揺らいでいる。「沖縄密約」をめぐる情報公開訴訟の控訴審判決は原告を逆転敗訴にして国を救済する一方、密約の存在を認め、文書は「廃棄された可能性が高い」と指摘した。廃棄した責任者を追及するのが本来の姿勢だと思うが、官僚依存を強める野田政権は、まったくやる気がないらしい▼情報公開を重視してきた民主党の姿はどこに行ったのか。歴史をゆがめて、恥じない政治家と官僚に外交は任せられない。