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またの名を「ハミズハナミズ(葉見ず花見ず)」と言うそうだ。彼岸花のことである。葉が出る前にするすると茎が伸びて花が咲き、葉は花が終わってから出る。葉と花をいちどきに見られないゆえの異名だと、ものの本にある。〈前略でいきなり咲きし彼岸花〉神田衿子▼それ以外にも彼岸花は土地土地で様々に呼ばれ、異名は50を超えるそうだ。「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」はよく知られる。「死人花(しびとばな)」は墓地に咲くことが多いためらしい。わが郷里では、花の形からか「舌曲がり」と呼んだ。この名もどこか禁忌のニュアンスがある▼その赤い花が、仕事で訪ねた上州の山里で、土手に畦(あぜ)に咲いていた。群れ咲く姿は遠目にも、火を焚(た)くように浮かび上がる。赤トンボも舞って里は秋の匂いがした。ススキが揺れて「おいでおいで」と人を呼ぶ▼秋の七草ながらススキは地味だ。だからこそだろう。「心なき人には風情を隠し、心あらん人には風情を顕(あら)はす。只(ただ)その人の程々に見ゆるなるべし」と江戸期の俳人鬼貫は説いた。雑草としか見えないようでは風流は失格らしい▼彼岸に合わせてぴたりとやって来た今年の秋は、律義者らしく衣替えの週明けにはいっそう深まるそうだ。天気図の曲線は、早くも「冬の胎児」を宿らせたかのような、ふくらみとへこみを描いている▼北海道の山間部では雪も見込まれるという。〈冬は又(また)夏がましじやと言ひにけり〉鬼貫。勝手な頼みだが律義は秋を限りとし、冬は道草好きの、少々怠け者がありがたい。