東日本大震災に続き台風15号に見舞われた時も、首都圏では大勢の帰宅難民が出た。災害時にはむやみに帰らないことが大切だ。家族の安否確認を保証する強い通信インフラの構築も急ぐべきだ。
非常に強い台風15号が直撃した先週の二十一日夕、首都圏では電車が相次いで運転を見合わせ、渋谷や新宿などの主要駅は帰宅困難者であふれ返った。
駅前のバスやタクシーの乗り場には長蛇の列ができた。「家族が心配だ」「子どもが留守番している」。人波に押されて自宅を目指す人からはそんな声が聞かれた。まるで東日本大震災の再現のようだった。
台風の時でさえ交通網が寸断され、この混乱ぶりだ。いつ起きても不思議ではない首都直下地震の時はどうなるか。気掛かりだ。
最大震度6強が予想される大地震だ。ビルは軒並み倒れ、至る所で火の手が上がる。広い範囲で停電し、電車は止まり、車は渋滞して身動きが取れなくなる。
そんな状況下で、都心で難を逃れた人が一斉に帰宅を始めると事態は深刻さを増すだろう。建物の崩落や火災に巻き込まれる恐れがある。地域の避難所となるはずの小中学校などに殺到すれば、地元住民の受け入れに差し支える。
首都直下地震では六百五十万人の帰宅困難者の発生が想定されている。できるだけ減らそう。
企業や学校、集客施設にいる人は安全を確保できたらその場にしばらくとどまる。その原則を肝に銘じたい。翌日にかけて時差帰宅するというルールも有効だ。
それには水や食料、トイレ、毛布といった必需品を民間がそれぞれ備蓄しておく必要がある。東京都は協力を促す条例作りを考えているという。急いでほしい。
何より災害時でも家族の安否を素早く確かめられる通信手段の確保が重要だ。ひとまず安心できれば、自宅へとはやる気持ちも自然と和らぐに違いない。
多くの人が頼るのは手元の携帯電話だ。公衆電話を探し当てて順番待ちをするのでは大変だ。パソコンのインターネットでは高齢者や子どもが使いにくい。
大震災の時に携帯がしばらく使い物にならず、残念だった。災害用伝言板のようなサービスの充実に加え、災害に強い携帯インフラを真っ先に整備してほしい。
家族や企業、学校で大地震に遭遇したらどう連絡を取り合うか事前に決めておく。安否と居場所が分かれば冷静に行動できよう。
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