失業者が職業訓練を受けている期間、一定の生活費が支給される「求職者支援制度」が十月一日からスタートする。雇用の安全網強化は評価できるが、根本的には雇用の創出と格差是正が必要だ。
日本の労働者は失業したとたん生活や住宅、再就職で厳しい状況に置かれる。頼みの雇用保険の失業給付期間は短く、ハローワーク(公共職業安定所)での仕事探しも容易ではない。
雇用保険の適用がないパートや派遣などの非正規雇用労働者たちはもっと大変だ。暮らしが困難になった人は生活保護に頼らざるを得ない。現役世代を含めた生活保護受給者数は三月以降、毎月二百万人を超えている。
求職者支援制度は、雇用保険と生活保護の中間に設けられた新たな安全網である。五月に成立した「職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律」(求職者支援法)に基づく。
対象者は失業給付が切れた長期失業者や非正規労働者、卒業後の未就職者、自営廃業者など。本年度予算では訓練受講者数を十二万六千人分確保している。
訓練は日常のコミュニケーションからパソコン操作、プログラミングなどのIT関係までさまざま。毎月の給付額は十万円で交通費も実費支給する。何よりも早期の再就職を目指している。
訓練は実践的かつ最新の技能・技術を習得させるべきだ。同時に求職者の事情にも配慮が不可欠。ハローワークの機能強化と講師のレベル向上がカギを握る。
不正受給には厳しく対処してもらいたい。病気などを除いて八割以上の出席を義務付けるのは当然である。悪質な事例には不正額の数倍を返還させるべきだ。
新制度への期待は大きい。だが安全網をもっと強化するには雇用の総量を増やすことだ。
東日本大震災では岩手、宮城、福島の被災三県だけで十数万人の失業者が出ているという。本年度第三次補正予算案では税・財政、金融など総力を挙げて雇用創出に取り組む。成長分野への進出も推進してもらいたい。
さらに取り組むべきことは長期雇用の確保と賃金などの格差是正である。焦点は非正規労働者。雇用契約は細切れではなく一定期間を確保する。賃金も正社員と遜色のない水準に引き上げる。失業防止と再就職しやすい社会を実現することは、中間層の拡大にもつながる国家の最重要課題である。
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